ハチ個体の多くはこの度数の溶液を飲むと、歩行や飛行に少し支障が出ていました。
比較として、セイヨウミツバチに同じ度数の溶液を与えてみると、完全に動けなくなっただけでなく、24時間以内に死んでしまっています。
ところがオリエントスズメバチは驚くことに、アルコール度数80%の溶液を飲んでも数分後には回復し、通常の行動を取るようになっていたのです。
アルコール度数80%というと、もはや酵母を使った醸造酒では作れません。
酵母の発酵により作られるアルコール度数の限界は、先ほども言ったように20%程度です。
この先は「蒸留」という、発酵させた液体原料を熱して蒸発させ、その気体を冷やして再び液体に戻す方法によってアルコール濃度を高めるしかありません。
蒸留酒の代表例といえば、ジンやラム、ウォッカ、焼酎、泡盛などで、アルコール度数80%の蒸留酒だと、オーストラリアのラム酒「ストロー」がちょうどそれくらいです。
オリエントスズメバチはストローと同じアルコール度数をグビッといって、ようやく「ほろ酔い」になるという驚異の酒豪でした。
では、オリエントスズメバチはなぜこれほどアルコール耐性が高いのでしょうか?
なぜアルコールに強いのか?
チームがオリエントスズメバチの体を詳しく調べてみると、彼らは他の生物と違い、アルコールの分解に関与する「アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)遺伝子」を複数コピー持っていることが判明しました。
これにより、彼らのアルコール耐性は他の生物に比べて大幅に高くなっていたのです。
研究者によると、こうしたアルコール耐性の高さはオリエントスズメバチの生存を有利にする上で進化したのだろうと指摘します。
というのも多くの果実は10〜11月の秋頃に熟し、発酵してエタノールを生産しますが、オリエントスズメバチのコロニーの繁殖期がちょうど10〜11月なのです。