企業文化/企業風土の改悪がボーイング社危機の根源

 もともとボーイング社は、家族主義的な気風に富んだ技術者集団であり、米国を代表するエンジニアリング企業と呼ばれていた。ところが、1990年代前半から、その性格を変え始め、技術よりも利益と株価に優先度が傾斜。その傾向を決定的にしたのが1997年、経営不振になっていたマクドネル・ダグラス社との合併だ。

 マクドネル・ダグラス社のCEOだったハリー・ストーンサイファー氏は、合併後のボーイング社の社長に就任し、企業風土を利益至上主義に転じる構造改革でらつ腕を発揮。実は、ストーンサイファー氏は、「経営の神様」として一時期あがめられたジェネラル・エレクトリックCEOであるジャック・ウェルチ氏の下で薫陶を受けた愛弟子。ウェルチ氏の基本的な経営手法は「リストラ」「ダウンサイジング」という大規模な整理解雇による資本力の建て直しと、企業の合併・買収(M&A)だった。

 ストーンサイファー社長の経営によって、技術者集団による家族的風土は破壊され、技術者も単なる一労働者として見なされ軽んじられるようになる。このため2000年2月には、1万7000人の技術者がストライキに訴えた。現場労働者ではないホワイトカラーによるストライキは、米国でも非常にまれなことだった。

 ストーンサイファー氏の退任以降もボーイング社は、利益・株価至上主義の経営に邁進。経営陣は現場の技術者や労働者のことより、政府へのロビー活動や民主・共和両党への政治献金を優先し、政府の規制当局FAAをも支配。FAAの審査官が、設計や製造上の問題を指摘しようものなら、政治力を使ってその審査官を排除した。

 このように、経営者が現場の技術者や労働者、またFAAを軽視したことが、設計不良隠蔽によるB737MAX墜落事故およびその後の品質保証問題を招いたといえる。現在のボーイング社の経営危機は、その誤った経営による、いわば自業自得の代物だ。