船井電機は24日、東京地裁から破産手続き開始の決定を受けた。2000年代には液晶テレビ事業で北米市場シェア1位となり、4000億円近い売上高を誇った「世界のフナイ」は、なぜ破産に追い込まれたのか。また、2023年の脱毛サロンチェーン運営会社ミュゼプラチナム買収後の混乱が破産の大きな要因になったのではないかという見方も出ているが、実際のところどうなのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
1961年にトランジスタラジオなどの電機製品のメーカーとして設立された船井電機が大きく成長する契機となったのが、米ウォルマートとの取引開始だった。1990年代にウォルマートと提携し、全米の同社店舗で船井のテレビをはじめとするAV機器を販売。OEM(相手先ブランドによる生産)供給の拡大やオランダのフィリップスからの北米テレビ事業取得(2008年)などもあり、世界的に名を知られる存在となった。
しかし、好調は続かなかった。2010年代に入ると、徹底したコスト低減による低価格を強みにシェアを拡大させていた船井電機は、海信集団(ハイセンス)やTCL集団など中国勢の台頭に押され業績が悪化。創業者である船井哲良・取締役相談役(当時)は大きく経営戦略を転換させ、北米向けの低価格のOEM供給から国内向けの4Kテレビなど高品質商品を自社ブランドで販売する方針にシフト。16年にはFUNAIブランドのテレビについてヤマダ電機(現ヤマダデンキ)と10年間の独占供給契約を締結するなどしたが、業績は好転せず。
21年には出版社、秀和システムの子会社である秀和システムホールディングスのTOB(株式公開買い付け)を受け入れて上場廃止に。23年に持ち株会社制に移行し、船井電機・ホールディングス(HD)傘下に事業会社の船井電機を置く体制となった。今年9月には船井電機HDの上田智一氏(秀和システム代表取締役)が代表取締役・事業会社の船井電機の社長を退任。今月3日には、船井電機の社長の後任には元日本政策金融公庫専務の上野善晴氏が、会長には元環境相の原田義昭氏が就任すると発表されていた。25日現在、同社公式サイト上の会社概要の役員一覧に上野氏の名前はない。
昨年度の最終損益は131億円の赤字で、24年3月期末時点での負債総額は約461億円。
破産に至った原因
一時はテレビ事業で北米市場シェア1位にまで上りつめた船井電機が破産に至った原因について、経済評論家で百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏はいう。
「船井電機は大手家電ブランドに近い品質で低価格という商品戦略で、液晶テレビを中心に売上を伸ばした印象があります。ただし、その絶頂期は1997年にアメリカでウォルマートとの取引を始めたときから創業者の船井哲良元社長が退任するまでのほぼ10年間だけでした。
そこから転落した要因は大きく3つあります。ひとつは液晶テレビ市場において中国系メーカーが台頭し、徐々に競争力を失っていったこと。ふたつめに後継者選びに失敗したことです。2007年に船井氏が社長を退任した際には売上高が過去最高の3967億円だった一方で、過去10年間で初となる赤字に転落しました。北米市場での大型テレビの販売競争が激化したことで、翌08年には売上高が前年比で▲30%減と大幅に縮小し、その後は売上減少と赤字基調が続くようになります。
そして14年から17年にかけては4度にわたって社長交代することになり、16年には▲338億円という過去最大の赤字を計上することになりました。その後も事業規模を縮小しながら経費削減に取り組んだのですが業績悪化が続き、20年には売上高がついに1000億円を割り込みました。
そして3つめの要因は、21年にTOBを通じて上場廃止をしたうえで新しいオーナーの下で再建をしようとしたのですが、その再建が失敗したことです」