これは選択的繁殖で「熱に強いサンゴ」を生み出せることを示した世界初の成果となっています。

その一方で興味深いことに、短期の強烈な熱波にさらされて熱耐性を獲得したサンゴのグループは、長期の緩やかな熱ストレスに対する熱耐性を示しませんでした。

これは逆もまた然りで、長期の緩やかな熱暴露で熱耐性を獲得したサンゴは短期の強烈な熱波には耐えられなかったのです。

つまり、それぞれの熱ストレスの条件下で獲得された熱耐性は、遺伝的にそれぞれの熱環境に対応した能力であると考えられます。

サンゴの熱耐性に頼るのは得策ではない

今回の研究は、人為的な繁殖でサンゴに熱耐性を持たせられることを示した有望な成果ではあります。

しかし研究者らは「サンゴの熱耐性を高められたからといって温暖化を許容するのは間違いである」とはっきり断言しています。

実際、研究者によると、現在の温暖化のスピードで予測される今後の海洋熱波の影響を踏まえると、ここで示されたサンゴの熱耐性の上昇レベルではとても太刀打ちできないというのです。

またそれとは別に、たとえ熱に強いサンゴだけが温暖化に耐えられたとしても、他の海洋生物たちが耐えられないのであれば何の意味もありません。

加えて、温暖化は生物以外にも、氷河の融解や森林火災の増加、気温や降水パターンの変動による干ばつ・洪水など、さまざまな環境に悪影響を及ぼします。

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サンゴだけが熱に耐えれてもダメ / Credit: canva

研究主任のリアム・ラックス(Liam Lachs)氏はこう話します。

「選択的繁殖によるサンゴの熱耐性の向上は実現可能ですが、決して特効薬ではありません。

その効果を最大化するためには、地球規模の温室効果ガス排出量の大幅な削減が絶対的な要件です」

研究チームは次なるステップとして、熱耐性を強めたサンゴを野生下に導入した場合に、生態系にネガティブな影響が見られないか、またどのような場所にどれくらいの規模で導入すると効果が最大化できるかを検討していく予定だと話しています。