北朝鮮は2022年11月18日、全米を射程内に置く新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射試験を行い、ICBMは北海道渡島大島西方沖約200キロの日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。ところで、北朝鮮メディアは金正恩総書記と同行する家族を写真で報じたが、金正恩氏の娘さん金ジュエ(主愛)の写真が初めて公に報じられたことから、さまざまな憶測が流れ出した。
なぜなら、金正恩氏はその後も公式の行事に頻繁にジュエさんを随行させていることが明らかになったからだ。日韓メディアでは「なぜ金正恩氏は娘を同行させたのか、ジュエさんはどんな娘なのか」などと大きな話題を呼んできた。
このコラム欄でも考えられるシナリオを紹介したが、韓国情報機関はここにきて「金ジュエさんは金総書記の後継者ではないか」と考え出している。金正恩氏は後継者の娘を公にすることで金王朝が3代で終わらず、4代以降も続くことを国内外にデモンストレーションしている、というわけだ。
当方はこのコラム欄で「金正恩氏は多分、英国のエリザベス女王の葬儀の場面を観たはずだ。その葬儀では、ウィリアム皇太子の2人の子供ジョージ王子とシャーロット王女が同行していた。英国内では『葬儀の場に子供連れは良くない』といったコメントが見られたが、欧州王室専門家は、そうではない。英国民から愛されたエリザベス女王の死後、チャールズ新国王、ウィリアム皇太子と英王室が続く。そしてジョージ王子とシャーロット王女を葬儀の場に同行させることで、英王室は永遠に続くことを公の場で見せる。世界の目が注がれるエリザベス女王の葬儀の場は、その意味で絶好の機会となるからだ」と書いた。
ウィリアム皇太子が2人の子供を同行させたように、金正恩氏は、祖父金日成主席、金正日総書記、そして金正恩総書記の3代後も金ファミリーから金王朝を継承する人物が出てくることを国民と世界に向かって見せる機会を探っていた。そこで「火星17」の発射実験の場に子供を同行させる考えが浮かんできたのだろう。その意味で、「金正恩氏はエリザベス女王の葬儀から王室継承のノウハウを学んだといえる」と解説した。
「火星17」が天に向かってその堂々とした雄姿を見せている。一方、その数十メートル離れたところで金正恩氏と娘が手をつないで歩きながら話している。そのシーンは映画の最高潮の場面を見ているような気分にさせる。「火星17」は金王朝を軍事的に支えるシンボルである一方、父親と娘は金王朝が永遠に続くことを示す。計算された演出とでもいえる(「金正恩氏が『英王室』から学んだ事」2022年11月21日参考)。