この主張は、少なくとも判決文に現われた原告の主張ですら見られることはありません(他の書面や法廷でどういう主張があったかは未確認)。

こうした無理のある論評は、450万円の支援金が集まったという結果を見てから言っているだけであり、実態と乖離していると言えるでしょう。

現実は、むしろ訴訟を提起する原告の立場の者が経済的余裕や多数の支援者を背景に政策形成訴訟をしたり、言論に対する圧力をかける例の方が目立つと言えます。

その例として、元朝日新聞記者の植村隆が、「捏造をした」という批判に対して訴訟提起した事案が挙げられます。この際は170人の弁護士が代理人として付いており記者会見まで行っていましたが、「捏造」という指摘には真実性や真実相当性が認定され敗訴しています。

「現在の日本ではネットで誹謗中傷をして訴えられたら寄付金を集めるという行為が横行している」?

前掲北村氏のコメントは「現在の日本ではネットで誹謗中傷をして訴えられたら寄付金を集めるという行為が横行している」という前置きがありますが、果たしてそんな「横行している」という状況はあるんでしょうか?

以下の主張にあらわれているように、本件訴訟以外での効果を狙ったものでしょう。

 今回の判決が、ネットで中傷を受けている方々にとって良い先例となることを祈っております。~中略~ ネットで中傷を受けている性的マイノリティや民族マイノリティ、アクティビストなどには私よりもっと執拗な攻撃を受けている方がおられます。比較的高額な賠償金や、寄付金集め行為の問題性に言及した判決文が先例となることで、他のもっとひどい中傷を受けている方々が訴訟を有利に進めることができるようになるかもしれません。

気になるのは、なぜ「ネット」に限定しているのか?ということ。

テレビや新聞・週刊誌の記事で、遥かに悪質なケースが昔からあるのだから、誹謗中傷記事の売上へのサンクションという形の制度設計を求めるという方向性は一理あると思われます。

現在の日本の不法行為に基づく損害賠償請求制度が「損害の填補」となっているのに対して「不法行為=誹謗中傷によって得た利潤の吐き出し」をさせるような制度になることは、私は賛成です。

草津町の冤罪事件のように、虚偽の主張に付き合ったビジネスが現実にあるからです。

しかし、「被告による訴訟支援のためのカンパの募集」は、それ自体が誹謗中傷ではないし、誹謗中傷を煽るものとも言えません。

北村氏がそうした方向にも非難を向けるのであれば賛同するのもやぶさかではないのですが…

東京地裁 Wikipediaより

編集部より:この記事は、Nathan(ねーさん)氏のブログ「事実を整える」 2024年4月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「事実を整える」をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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