次に「声の大きな人たち」は尿という字が汚いイメージが悪い偏見につながるという。しかしでは「便秘」はどうなのか。「膀胱炎」膀胱は尿が貯まるに決まっているから汚い言葉ではないのか。

そもそも「痴呆」は「バカ、バカという意味で良くない」と「認知症」に変えたら、医療介護現場では「あの人ニンチだから」というようになった、結局差別意識は変わらない。

「障害(者)」についても「障碍」「障がい」に変えたからと何が良くなったのか。障害者雇用を見ると雇用者数は60万人強でしかない。一般企業等への就職が難しい重度障害者のためのいわゆる授産所や作業所である支援事業所は、給与にあたる工賃が月数万円程度でしかないという。

我が国では近年「言葉狩り」が横行し言葉の改変を繰り返してきたが、実は中身、当事者の待遇や接する側のメンタリティはほとんど何も変わっていない。上っ面の言葉を誤魔化しただけで終わっている。

さらには特に先天性の障害者等の障害を軽減回復する手術などに適応される公費医療「更生医療」にまで物言いがついた。「更生は悪いものを直す意味だからよくない」という。しかし更生の第一の意味は「よみがえる」である。立てない人が立てるように、よろめいて歩くのがやっとな人がスイスイ歩けるように、先天性心奇形を手術で直して元気になれるように、等のための公費医療が更生医療なのに、その本義を理解せず言葉尻だけに反応しているのではないか。

話を糖尿病に戻して、糖尿病と知られると「だらしがない」等偏見を持たれる、と「声の大きな人たち」は言う。そうだろうか。

筆者は多くの糖尿病患者の保健指導に携わったが、色々である。きちんとした人も居るしだらしない人も居る。100Kgを超える巨体、痩せるだけで改善するのが分かっているのに、何を言っても生活を変えない痩せない人はどこにでも必ず居る。病名ではなく、その人の普段からの働きぶり人となりが職場などで評価されているのではないのか。

近年は公共のトイレ等にインスリン注射の針が置き捨てられ問題になっている。当然だがインスリン注射を指導する際に、必ずしっかりした容器で持ち帰り・保管し医療機関に持参廃棄するよう指導する。それができない、言われたこと護るべきルールを護れないような一部の人が問題なだけではないのか。

このまま病名変更したとしても、認知症がニンチと呼ばれるように、糖尿病は「あいつダイアベだべ」と言われるだけの話に終わるのではと予感する。

さて年度明けには診療報酬改定がある。そこで外来医療ではかなりの衝撃? 糖尿病や高血圧、脂質異常症など生活習慣病患者への食事運動療養指導の根拠また原資となっていた特定疾患療養管理料が見直され、糖尿病等では算定できなくなるようだ。率直に言ってきちんと指導助言していない医師・医療機関もあるだろうが、熱心に関わっている医師、看護師、栄養士等も居る。まさに足元をすくわれる感である。

ちなみに「指導」という言葉も近年嫌がられている。「意識の高い」糖尿病専門医療者は「患者支援」と言い換えているようだ。しかし筆者は何か責任放棄を感じる。こちらは医療専門職、国家資格を持ち学習研鑽を続け患者をはるかにしのぐ知識と経験をもって「病気が良くなる方向を指さし導く」から指導という。応援してますよ(あんたが自分で頑張れ)、で済むはずがない。それで済むなら糖尿病になどならない。善き導き手(であること)は大切なのではないのか。

近年の研究では、一定の条件を満たす糖尿病患者の一部は、治療薬を離脱し食事運動療法のみで済む、実質的治癒(寛解)し得ることが分かってきた。糖尿病でなくても摂生している人は多いから、食事運動つまり生活の摂生だけで済むならもはや病気とは言えない。しかしそうなるためには強く自身の状態を意識して摂生する必要がある。イメージ気分悪いから病名変えろというメンタリティで、それができるだろうか。

筆者は先年「愚鈍化・刹那主義化し、命が軽い日本人 」で日本人の少なからずが刹那的かつ「考え足りなく」なっていないかと論じたが、今回の糖尿病を含め過去の病名変更騒動「言葉狩り」もまた同じくに見える。上っ面見かけの問題ばかりこだわり、本質的部分が軽んじられ忘れられていく。これで日本いや闘病すべき本人たちは大丈夫なのだろうか。

糖尿病は健康診断やたまたまの血液検査で発見されることが多い。もちろんほとんどの人は晴天の霹靂である。しかし早く見つけて原因を分析しつつ食事、運動の摂生、それでだめなら治療薬で多くはコントロールできる、つまり普通の生活ができる。血圧が高ければ減塩して薬を飲むのと変わらない。トイレに行くと自動的に尿検査し健康管理するシステムの開発も複数で進められている。刹那的感情的に大事なことを安直に変えて、見失わないようにしたいものである。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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