20日は「世界幸福デー」だった。それに合わせて慣例の国連「年次世界幸福度報告書」(調査期間2021年~23年、143カ国を対象)が発表されたが、それによるとフィンランドが7年連続、世界で最も幸福な国に選ばれた。2位はデンマーク、3位アイスランド、4位スウェーデンと北欧4カ国が上位を独占した。同時に、調査を担当した学者たちによると、幸福度の国のランクでは多少の変化が見られたが、世界の幸福度の不平等は過去12年間で全ての地域と年齢層で20%以上増加した。

ウィーン市の公園の3月の風景(2024年3月16日、撮影)

「世界幸福デー」は2012年、南アジアの小国ブータンが提案したもので、国連総会で採択された。この日は、世界中の幸福と福祉の重要性に焦点を当てることを目的としている。なぜならば、グロバールな世界でどの国、民族、社会でも人は誰でも幸せを求めているという認識に基づくからだ。その意味で、経済力、軍事力の国別比較とは違い、国民の幸福度に焦点を合わせたものだ。

人は幸せを求めるが、具体的には、人間として衣食住が保障されることが最優先となる。家族があるなら、家族が安心して住み、食事、衣服などの基本的欲求が満たされるならば、その人、家庭、社会は幸せを感じる。ただし、心理学でいう「要求水準」は人、国、経済、社会・文化などの分野でそれぞれ異なってくる。

衣食住が保障されていない社会や国に生きる人間はそれが少しでも満たされれば、その人の幸福度は高まる。一方、衣食住は当然で、無数の消費財に囲まれた生活をしている先進諸国の国民は家族で一緒に旅行したい、環境のいい郊外に住みたい、家や車が欲しい等々、さらなる欲求が満たされない場合、その人、家族は幸せを感じないというケースも出てくる。

フィンランドが7年連続世界で最も幸福な国に選ばれたが、フィンランドの冬は厳しいし、衣食住を含む全ての分野で他の国よりそう幸せかというと、そうとも言えないのではないか。確かな点は、フィンランド人はどの国の国民より、現在の環境、衣食住、政治システムに満足しているといえるのではないか。最高の衣食住の環境にあっても、その人の要求水準が高く、それに満足できない場合、その人は幸せだとはいえないからだ。

西側諸国では過去、若者が最も満足しており、主観的幸福度は成人初期に減少し、中年以降に再び大幅に増加するというものだったが、今回発表された報告書は、この「U字カーブ」が当てはまらず、場合によっては若者の幸福度が低下していることを示しているというのだ。

北米では初めて15歳から24歳が上の世代よりも幸福度が高く評価されなかった。西欧でも同様の傾向が見られるという。「若者がミッドライフ・クライシス(中年の危機)のような状況を経験している」という専門家の意見も聞かれるほどだ。

報告書はその原因については述べていないが、ソーシャルメディア利用の増加、所得格差、住宅危機、戦争や気候変動への懸念が若者の幸福度に影響を与えている可能性が懸念されている。未来に対する不安がソーシャルネットワークで増幅され、若者が希望を失っていくというサイクルだ。幼少期の幸福と精神的健康が、大人になってからの人生の満足度を決定する要因となるといわれるだけに、幼少期を含む若い世代の幸福度の減少は大きな社会問題だ。