マクロン氏は大統領だから選挙とは直接関係はないが、RNが下院選で勝利し、政府をRN主導政権とした場合(コアビタシオン)、政権運営が難しくなるうえ、2027年の大統領選でルペン氏が勢いを得て大統領に選出されるチャンスが更に膨らむ。マクロン氏はそれをなんとか阻止したいのだ。果たして、マクロン氏は心落ち着かせてG7サミットの議題を協議できるだろうか、と心配になってくる。

ドイツの場合、ショルツ首相を率いる3党連立政権(社会民主党、緑の党、自由民主党)は欧州議会選で完敗し、3党の得票率を合わせても30%余りだ。一方、中道右派「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)が断トツでトップを走り、それを極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が東独で高い支持率を得て、第2党に躍進した。ショルツ連立政権の任期は2025年秋まであるが、ドイツ国内では既に議会を早期解散して国民の信任を問うべきだという声が高まっている。9月以降、東独で3州の議会選が実施されるが、ショルツ政権の苦戦は予想され、政権は青息吐息といった状況だ、ショルツ首相の頭は9月以降に実施される東独3州議会選(ザクセン州、チューリンゲン州、ブランデンブルク州)の対策で一杯ではないか(「ドイツで早期総選挙実施の声高まる」2024年6月13日参考)。

イタリアのG7サミット会議ではホスト国イタリアのメローニ首相が一番元気がいい。欧州議会選でもメローニ首相が率いる右派政党「イタリアの同胞(FDI)」が第1党と躍進したばかりだ。欧州委員会のフォンデアライエン委員長の再選の可能性は高まってきているが、同委員長はここにきてメローニ首相と接触し、極右派の支持を得ようと腐心している。メローニ首相の株は急上昇中だ。短命政権が常だったイタリアの政界でメローに首相は異例の政治力を発揮している。

日本の岸田首相にとっても議会選挙は決して遠い先ではないだろう。国内では既に「ポスト岸田は誰か」と囁かれている。得意の外交で支持率をアップするためにG7の檜舞台で活躍したいところだが、ホスト国を務めた広島G7のようにはいかないだろう。欧米リーダーの陰になって、その存在感を発揮できずに終わるのではないか。なお、今回のG7サミットで参加回数が最も多いのはカナダのトルドー首相だ。同首相は来年、首相就任10年目を迎える。

選挙は民主主義の要であり、法治国家の証だ。選挙に勝たなければどんな政治家も即タダの人となる。それだけに、政治家が選挙に邁進するのは当然だろう。その点、世界のメディアの注目が集まるG7サミット会議はいい機会だが、世界の行方、動向を協議する会議で、国内の選挙戦に心が奪われている政治家の目線はどうしても国内の有権者の反応に関心がいくものだ。

参考までに、プーチン氏はウクライナのゼレンスキー大統領に対し、「大統領としての任期が過ぎたのに大統領職を行使している」として、政治家としての正当性に疑いを投じている。プーチン氏は「自分は大統領選の洗礼を受け、通算5選を果たしたばかりだ」と考えているのだろう。ただ、欧米ではプーチン氏の5選に祝電を送った国はほとんどなかったように、ロシアの大統領選は民主選挙とは程遠い。ちなみに、ウクライナではロシア軍の侵攻以来,戒厳令が敷かれており、2024年3月末に予定されていた大統領選は延期されたばかりだ。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。