シグナル点灯の条件は、1)PRRが2以上、2)カイ二乗値が4以上、3)注目する医薬品の注目する副反応の報告数が3以上ですので、シグナルはギラン・バレー症候群と急性散在性脳脊髄炎とには点灯せず、血小板減少性紫斑病のみに点灯しました。
ギラン・バレー症候群は18倍の報告があったのに拘わらずシグナルは点灯せず、少々意外な結果となりました。ただし、注意するべきことは、シグナル検出には複数の手法が提案されており、手法が変われば結果も変わる可能性があるという点です。
また、PRRの場合であっても、副反応の合計で用いた数値と異なるデータを用いれば、結果が変わる可能性があります。シグナル検出は常に正しい結果が得られるわけではなく、参考にするべき一つの指標にすぎないことを理解しておく必要があります。
PMDAでは、コロナワクチンのシグナル検出として、2022年7月より「MID-NETに基づく COVID-19 ワクチンに関する安全性プロファイル等の評価」という調査を実施しています。今のところシグナルは検出されていないようであり、このことが厚労省が「重大な懸念はない」と判断する根拠の一つとなっていると考えられます。
PMDAではシグナル検出を「早期安全性シグナルモニタリング」と呼んでいます。その手法は、コホート研究に近い手法のようです。PMDAは、早期安全性シグナルモニタリングの結果を解釈する場合の注意点を次のように説明しています。
この調査は探索的な調査として位置付けられるものであり、検証的な調査時には、比較のために患者背景(年齢、性別、併用薬、合併症、重症度等)を薬剤疫学的な手法に基づき調整して解析することが一般的ですが、そのような調整等は厳密に実施されていない調査となります。したがって、早期安全性シグナルモニタリングで得られた結果については慎重に評価する必要があり、シグナルが認められたとしても、直ちにそれが医薬品の安全性上問題があること(医薬品と有害事象に因果関係があること)を必ずしも示しているわけではありません。
シグナルが点灯しても、それを「重大な懸念を示している」と直ちに解釈するべきではないことが解説されています。
生データによる頻度をバイアスを補正せずに比較することは科学的ではありません。シグナル検出はあくまでも簡易的手法であり、常に正しい結論が導き出せる手法ではありません。コホート研究が理想ですが、弱点もあり、それを理解した上で結果を解釈することが必要です。また、「重大な懸念はない」の背後にある意味を理解しておくことも大切です。医学で一つの結論を得るためには、多面的な分析が必要であり、膨大な労力が必要なのです。
疫学研究にはお金やマンパワーが必要です。西浦氏が「調査研究プロジェクトの申請を出しましたが、数億の助成も獲得できませんでした」と嘆いていました。NHKによると“コロナ予算”は、新型コロナの流行が本格化した令和2年度だけで、総額77兆円という話です。疫学研究に何故数億円程度のお金の配分ができないのか、私には不思議で仕方がありません。政治家もマスメディアも疫学の重要性をもっと認識するべきです。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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