FDAからの警告についても議論されている。FDAへの報告(FDA Adverse Events Reporting System(FARES))では、報告された8000名のCAR-T細胞療法を受けた患者のうち、20名がT細胞リンパ腫を発症したので、治療関連2次がんとして報告され、警告につながったと思われる。リンパ腫細胞に導入されたキメラ遺伝子を検出すれば、関連性がはっきりして、治療関連2次がんとなる。しかし、FDAの報告にある400名に一人の割合と比較して、この大学からの報告の449人中一人は似たような割合だ。
年齢的な背景がわからないので、治療後5年以内の2次がん発症率が高いのかどうかわからないが、治療の結果としてB細胞が極端に低下したり、無くなったりすると、抗体を作る細胞がなくなり、抗体によるがんに対する免疫が低下して、2次がんリスクが固まる可能性は否定できないと思う。
しかし、CAR-T細胞の治療効果の高さを考慮すると、2次がんの心配するよりも、今存在しているがんを叩き、消滅させる利益の方が、2次がんのリスクを考えて治療を受けない不利益よりもはるかに勝るのではなかろうか?
わか国には伝統的に利益と不利益を冷静に客観的に比較し、議論する文化がない。ヒトパピローマウイルスワクチン接種が進まず、日本では子宮頸がんの発症数が高止まりしている。そして、若いお母さんが子供を残して天に召されたり、子宮摘出で子供を産めなくなったりしている。
みんなに利益があって、誰も不利益を被らない薬剤やワクチンなどないのだ。この現実を無視して、不利益だけを大きな声で取り上げて、理想を語っているだけでは、日本の医薬品開発は進まない。そして、助けることのできる命を、助けることができない状況が続くのだ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2024年1月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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