下図は、熊本地震の発生時刻の40分前(2016年4月16日0時45分)に、観測された上空の電離層の電子数の異常増加について、全国規模の評価結果を示したものです。
異常と判定された赤色の点が熊本県上空に集中していることが分かります。
また地震のときには、電離層の位置がが20km下方へ移動したり、中規模伝搬性電離圏擾乱(MSTID)の速度が遅くなる、という事象も観測されています。
MSTIDは一種の波動であり、その異常はGPS信号や無線通信などにも影響を与えることが知られています。
このようなタイミングの一致は、地面の異常である地震と空の異常である電離層の乱れが無関係ではない可能性を示しています。
しかし電離層での電子の動きが地震と関わる詳細なメカニズムについては明らかにされていませんでした。
そこで、京都大学の研究者たちは地震と電離層の変化の因果関係を突き止めることにしました。
地殻変動が電離層の異常に繋がる物理的メカニズム
地震と電離層は関係しているのか?
謎を突き止めるため研究者たちが着目したのは、地質成分でした。
近年行われた震源地付近での地質調査では、断層地殻の溝には滑りやすい粘土層(スメクタイト)が存在し、その中に多量の水が含まれている可能性があることが明らかになっています。
また地震が起きて地面が激しく揺さぶられると、水を囲む層が高圧下で摩擦を受けることで非常に高温になると予想され、同時に内部の水は高温・高圧下では超臨界状態となると考えられています。
超臨界状態とは、特定の温度と圧力を超えたときに起こる、物質が液体でも気体でもない特別な状態です(水の場合には374℃、218気圧以上で超臨界状態となります。)。
また超臨界状態では、絶縁性が大きくなり、摩擦などで発生した粘土と水の混合物の微粒子がプラスに帯電することで破砕層を横切る電圧が上昇することになります。