鄧小平がタネを蒔いた非効率な借金経営

非常に皮肉なことに、このあまりにも非効率なコモディティ化した製造業中心の経済成長路線が定着したのは、鄧小平が実権を握ってからのことでした。

毛沢東時代には人民公社・大躍進の号令をかけた1958~60年に投資がGDPの4割というような時代も発作的にありましたが、上段に示した通りだいたいにおいて投資はふつうの発展途上国と同程度のGDPシェアにとどまっていました。

ところが、鄧小平時代になるととにかく政敵を納得させる実績づくりのために、やれば即GDP成長に貢献する投資拡大を強引に推進するようになりました。しかも、先進諸国では利幅が取れないので衰退に任せるようになった成熟しきった分野の製造業です。

こういう分野で生き残るためには、借金の金利よりほんの少しでも営業利益率が高ければ借金を増やして経常利益率を高めるしかありません。そこで下段のようにふつうの民間企業の債務がとめどもなく膨張する経済ができ上げってしまったわけです。

民間企業の中でも金融業界は借金が資本のようなものですから別格ですが、中国の場合非金融企業債務の対GDP比率が異常に高くなっています。

上段で確認できるこのところ160%に定着した非金融部門企業債務の対GDP比率は、下段に眼を転ずると他の新興国とは隔絶した高さであるとともに、老衰が進んで今やギアリングを高める以外に利益率向上の手段を持ちあわせないユーロ圏よりもはるかに高いのです。

これだけ民間企業部門の融資需要が高ければ、国内にある投融資原資を使い果して海外からの投融資に頼り、高い配当や金利を払って万年金融所得勘定が大赤字になっているのも無理はないと思います。

中国株はほんとうに割安か?

そこで問題なのが、ここまで借金漬けになってしまった中国民間企業の将来になんらかの夢を描けるのかということです。私はその答えはもう株式市場が出していると思います。

上段でご覧のとおり、アメリカのGDP成長率に対するS&P500上昇率は240%近い伸び、つまり3.4倍になっているのに、中国のGDP成長率に対する香港ハンセン株価指数の上昇率はマイナス90%と惨憺たるものです。

中国のGDPと香港の株価を比較するのはフェアじゃないとお考えの方もいらっしゃるでしょう。でも、ハンセン指数は中国株の中では比較的消費者や金融市場に対する反応のいい銘柄を揃えているのです。

もっと生粋の中国株を集めたCSI300指数の中国GDP成長に対するパフォーマンスは短期間でハンセン指数より悲惨な実績となっています。

じつは世界経済の規模に対する自国GDPのシェアに比べて株価が低すぎるというのは、中国経済の宿痾とでも言うべき特徴なのです。次の2段組グラフをご覧ください。

中国のGDPが世界経済に占めるシェアは4~16%と、アメリカ以外にこんなに高いシェアを持続できている国はないと断言できる高水準です。ところが、たった1年だけ株式時価総額で世界の4%台に乗せたことがあるだけで、あとは一貫して0~3%台にとどまっています。

逆に日本のGDPは世界の2~8%にとどまっていますが、株式時価総額の世界シェアは第二次世界大戦後から1970年代初めのペナルティボックスに入れられていた時期を除けば、常にGDPシェアより高かったのです。

何が違うかと言えば、オリジナルでこれが欲しかったと言われるようなモノやサービスを産み出しつづける能力です。日本にはそれがあり、残念ながら中国にはそれがないのです。

もちろん、鄧小平の製造業落ち穂拾い路線や、習近平の「太陽光発電、EV、生成AIこそ未来を切り開く大革新だ。ここに知的資源も経営資源も集中せよ」といった大間違いな経済政策も大いに貢献していますが。

周回遅れのトップランナー、IPO市場を制す

このほとんど例外のない先見性の欠如は、今ごろになって中国がIPO市場での資金調達のトップに躍り出たことにも表れています。

一目瞭然、たんにトップどころかIPOによる資金調達額の世界シェアが50%近くにまで上がっています。ただ、経済で中国がトップになる分野があれば、それは確実にもう衰退しはじめている分野か、これから衰退する分野です。

IPO市場の場合、有望な上場企業候補を探せなくなってしまった私募債ファンドが「これから上場企業候補を探しますから、取りあえずこのカラ箱に資金を入れてください」という特別買収目的会社(SPAC)で市場を荒らしまくったので、閑古鳥も鳴かないほど廃れています。

下段の香港の場合、一国二制度の約束はほとんど破られてしまいましたが、この期に及んでIPO市場にカネを突っこむほど思考様式で「中国本土並み」化はしていません。

一方中国本土政府ご指導のもと、中国のIPO市場は今ごろになって大活況です。中国への「更地」からの対外直接投資のブームは2018年にピークを過ぎてしまったというのに、その頃は細々とやっていたIPOがらみの資金調達を、今ごろになって増やしているのです。

もっとも、最近のシェア拡大には、アメリカのIPO資金調達が激減して世界総額も目減りしているので、中国のシェアが自然に増えてしまったという要因もありますが。

とにかく、あまりにも長期にわたってつかみガネの利権経済に安住していると、明らかにそこに突っこんだらダメに決まっているというところに平然とカネを突っこむ悪癖ができるのは事実です。

損はまた後で国民から搾り取った利権でカバーできるということなのでしょう。