全身法は社会人にオススメのアプローチ

この実験では、トレーニング期間を通して身体各部位の筋肉痛を記録するように対象者に求めていますが、その結果を見ると、分割法群で著しいことが分かっています。

そこでオルサッティ教授らは、筋肉痛の大きさと体脂肪の変化との関係に着目したところ、筋肉痛が軽い人で体脂肪が低下しているという相関関係を認めました。

この結果をもとに、研究チームは一度に特定の筋群をハードに追い込む分割法群では、筋疲労やトレーニング後の筋肉痛によって、その後の日常生活の活動量が減ってしまい、エネルギー消費量が少なかった可能性があると考察しています。

これは、運動の種類が違うものの、以前取り上げた、筑波大学や東京都立大学の研究チームらによる激しい運動によるデメリット面にも通じるもので、興味深い結果です。

同じ筋肉を一度に追い込み過ぎると、ダメージが大きくなりやすい
同じ筋肉を一度に追い込み過ぎると、ダメージが大きくなりやすい / Credit: Canva

その他にも、研究チームは、全身法では、毎回大きな筋肉が使われるため、運動後しばらくの間エネルギー消費量が増えるいわゆるEPOC現象からみても、体脂肪を減らすために全身法の方が有効な可能性があることを指摘しています。

なお、この実験では、全身法群の方がトレーニング期間を通した総負荷量(全ての種目を合計した重量×反復回数×セット数)が多くなっていました。

ただし、体脂肪の変化との相関関係は、総負荷量よりも筋肉痛の方が強かったことを踏まえ、研究チームは総負荷量の差が全身法群における著しい体脂肪減少には寄与しなかっただろうと考察しています。

全身法は、急な事情でトレーニングが1回できなくなった場合でも、毎回全身に刺激が入るため、筋力向上や筋肥大につながりやすいとされます。

一方、分割法ではトレーニングを休むことがあった場合、全身の筋肉を一巡するのに時間がかかってしまい、仕事やプライベートが忙しい時にはなかなか効果があがりません。

過度なダメージを避けながらも、肉体改造をはかりたい人は、一度に様々な種目を行う全身法を取り入れてみてはいかがでしょうか?

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参考文献

Being Sore After a Workout Doesn’t Mean Your Muscles Are Growing
https://www.vice.com/en/article/9k4gvy/being-sore-after-a-workout-doesnt-mean-your-muscles-are-growing

元論文

Full-body resistance training promotes greater fat mass loss than a split-body routine in well-trained males: A randomized trial
https://doi.org/10.1002/ejsc.12104

High-Frequency Resistance Training Is Not More Effective Than Low-Frequency Resistance Training in Increasing Muscle Mass and Strength in Well-Trained Men
https://doi.org/10.1519/JSC.0000000000002559

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。