国民の間では、大統領選とEU加盟国民投票を同時に実施することに反対の声が強かった。反対派は「EUとの交渉は続行すべきだが、加盟交渉が完了した段階で国民投票を実施すべきだ」と主張している。親ロシア派の一部の政治家はEU加盟を問う国民投票をボイコットした。

ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、モルドバには多くのウクライナ国民が避難してきた。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、「欧州の最貧国」と呼ばれ、人口約264万人の小国モルドバに50万人余りのウクライナ人が避難してきた。

モルドバの欧州統合プロセスは急テンポだが、ウクライナのようには北大西洋条約機構(NATO)の加盟は願っていない。国内にロシア系少数民族が住んでいることから、プーチン大統領を刺激したくないという政治的判断が働いているものと推測されている。

2022年2月にロシアがウクライナに侵攻して以来、モルドバの多くの人々は、「次にロシアはわが国を攻撃するのではないか」という懸念を抱いている。ソ連崩壊後にモルドバから分離したロシア語圏のトランスニストリア地方の情勢に多くの国民は不安を感じている。

ちなみに、ウクライナ南部に接するモルドバ東部のトランス二ストリア地方はモルドバ全体の約12%を占める領土を有する。モルドバ人(ルーマニア人)、ロシア系、そしてウクライナ系住民の3民族が住んでいる。同地域にはまた、1200人から1500人のロシア兵士が駐在し、1万人から1万5000人のロシア系民兵が駐留。ロシア系分離主義者は自称「沿ドニエストル共和国」を宣言し、首都をティラスポリに設置し、独自の政治、経済体制を敷いている。状況はウクライナ東部に酷似しているわけだ。

サンドゥ大統領を批判する国民は「西側の利益を優先する一方、厳しい経済状況や高インフレの改善に取り組んでいない」と指摘、サンドゥ氏がロシアのガス供給を拒否したため、エネルギー価格が高騰し、多くの消費者が不満を抱いているという。