民主党の中でも、消費税の増税については異論があった。マニフェストでは消費税にふれていなかったが、鳩山首相が国会答弁で「4年間は消費税を上げない」と答弁しており、党内でも小沢派が消費税の増税に反対していた。
党内でもめたあげく、消費税を5%増税し、そのうち4%を基礎年金の国庫負担や財政赤字の穴埋めにあてることになった。これでは財源は足りなかったが、党税調で「消費税率は2014年4月に8%、15年10月に10%にする」という案が決まった。年金改革の中身が決まらないまま、増税だけが決まったのだ。
増税は決まったが、最低保障年金は葬られた一体改革関連法案は2012年3月に提出されたが、そこでは年金改革は「政府はこの法律の施行後3年を目処として所要の措置を講ずるものとする」と書かれ、2015年以降に先送りされた。これをもとに民主・自民・公明の3党合意が結ばれて法案が成立し、小沢派議員50人が離党した。
この年の暮れの総選挙で民主党は敗北し、年金改革は安倍政権に引き継がれたが、社会保障制度改革国民会議は最低保障年金の棚上げを決めた。こうして2003年から民主党が提案してきた最低保障年金は、法案にも入らないまま忘れられた。
その原因は増税をめぐる党内抗争と財源不足だったが、もう一つの隠れた原因は年金官僚の妨害だった。1階部分をすべて税にすると財務省の所管になり、厚労省の最大の利権である社会保険料の一角が失われる。年金官僚はあくまでも社会保険料という牙城を守りたかったのだ。
今や一般会計113兆円を超える138兆円になった社会保障は、政治的利害のからむ「暗黒大陸」である。その実態はあまりにも複雑で、全貌は誰も知らない。それを隠れ蓑にして年金官僚は既得権を守り、世代間格差を無視し、改革を抹殺してきたのだ。
ルポ年金官僚―政治、メディア、積立金に翻弄されたエリートたちの全記録