これでイスラム問題はいったん収まりますが、ヒンドゥとシークの問題は残ります。インド国内でのシーク派の比率は1%台程度で極めてマイナーな立ち位置にありますが、彼らは北部のパンジャブ州あたりでインドからの独立運動を模索します。これがカリスタン運動と称するものです。インド国内ではさほど目立った動きは起きていないのですが、国外からその活動を展開しており、昨年バンクーバー近郊で殺害された人はこの活動の指導的立場であったとされます。インドではテロリストとして認識されていたようです。殺害犯人は捕まっていないものの諜報組織が殺害したものだとカナダ警察はほぼ断定しています。
ところがインドのモディ首相にしてみれば仮にそんなことをインドの秘密組織が実行したとしても「はい、やりました」とは逆立ちしても言えません。そのため、カナダのトルドー首相に逆に食って掛かるという事態になっているのです。そこでカナダとしては証拠を固める必要があるわけです。
双方の外交官追放合戦は当然ながら外交に重大な問題をきたします。特にカナダにインド系カナダ人は180万人強がいてうち、シーク教徒は50-80万人程度いるとされます。うちバンクーバー近郊はその最大拠点です。双方のトラブルによりビザの発給をはじめ各種経済交流が滞る可能性が指摘されており、隠れた外交問題になっています。
ではこれはトルドー氏の失策なのでしょうか?ここは評価が難しいところです。トルドー氏は習近平氏やトランプ氏ともうまく立ち回ることができず外交は下手というイメージがあります。今回のモディ首相とのあまりにも冷たくなった関係もトルドー氏の駆け引き下手が引き起こしている面も多々あるでしょう。
一方、トルドー氏のカナダ国内での支持率は低迷しており、来年秋の期間満了を待たず解散総選挙をするのではないかとささやかれています。ただし、やればほぼ負けて保守党が政権を奪い返すとみられています。個人的には今年にも解散はあり得るとみています。理由は25年1月からカナダはG7の議長国になり、あらゆる分野の閣僚を中心とした国際会議がカナダ各地で開催されます。そのため、途中で顔が変わるより始めからリフレッシュした方がよいだろうという計算が働くのではないかとみています。(もちろんトルドー氏は自分が仕切ると今でも思っているはずですが。)