メルカド氏は元々、ザトウクジラの歌を研究しており、その流れでげっ歯類の超音波発声(USV)に関心を向けています。
同氏がげっ歯類のUSVに関する既存の研究を集めてメタ分析を行ったところ、オス個体がSUVを使ってもメス個体との繁殖成功にはつながっていないことを発見したのです。
これは従来いわれてきた「超音波発声=潜在的なパートナーへの求愛表現」の仮説とは矛盾するものでした。
その一方でメルカド氏らは、超音波を発するマウスの観察研究で興味深い行動パターンを発見します。
それはマウスが超音波を出した直後、ほぼ必ずといっていいほど、すぐに「鼻をすすっている」ことでした。
これはSUVが嗅覚と何らかの関係を持っていることを暗示しています。
そこでメルカド氏らは「超音波の物理的特性」と「マウスの嗅覚」という2つのポイント考え合わせた末に、「マウスは超音波発声で空中の粒子を動かし、クラスター化させている」という説にたどり着いたのです。
一体どういうことでしょうか。また、そうすることに何のメリットがあるのでしょう?
粒子のクラスター化で「嗅覚の能力」を高めている可能性
音響学に関するこれまでの知見では、超音波を使うことで空気中の粒子を動かし、クラスター化(複数の粒子が集まって集合体を形成すること)できることが十分に知られています。
超音波は特定の周波数や強度で空気中を伝わる際に、粒子に力を加えることで粒子を動かしたり、集めたりできるのです。
メルカド氏は「超音波を使って粒子を操作する技術が音響学の分野で使われていることを知っていたので、これはマウスにも使えるかもしれないとすぐに思いました」と話します。
そしてメルカド氏は、マウスが超音波発声で空中のニオイ分子をクラスター化させることで、鼻で簡単に拾いやすくし、その匂いの発信源の情報をより検出しやすくしているのではないか、と考えたのです。
その中には例えば、親しい仲間や家族あるいは天敵、食料、それから潜在的なパートナーが残したフェロモンなどが含まれるでしょう。