人材業界は求人内容の確認・管理を求められる

改正にともなって、人材業界は様々な対応が求められます。

まず求人メディアに関しては、的確表示への対策が必要になります。求人メディアの中には求人企業の依頼を受けて求人原稿を制作するものと、クローリングで集めた求人原稿を転載しているもの、そして求人企業が自ら求人原稿を作成して入稿するものの3タイプがあります。

社内に取材班があり、企業からの依頼を受けて求人原稿を作成しているメディアには、大きな影響はないでしょう。モラルを持って運営してきた企業であれば、これまでも虚偽や誤解を生む表記はしていないはずだからです。

しかし、求人企業が直接入稿するタイプのメディアでは、入稿された内容を確認・管理する必要が出てきます。求人企業はこうした規制に明るくないことが多いので、「こういう表記はできないので、こうしてください」といった指導が求められるでしょう。

また、クローリング型のメディアでは、取得してきた求人原稿の中から不適切なものをはじく対応が必要になります。自動で拾ってきた求人情報をひとつひとつ確認することは難しく、この対応をどうするかが課題になりそうです。

チェック体制を新たにつくるとなれば、システムの費用や人件費がかかり収益性にも影響が出るかもしれません。

次に人材紹介・人材派遣についてですが、ここでは自社で自ら発信する媒体であるオウンドメディアを持っている場合に、それが「紹介事業・派遣事業」なのか「特定募集情報等提供事業」なのかを明確にする必要が生まれてきます。

というのも、たとえば人材紹介事業者のオウンドメディアからエージェントを介さず直接企業に応募できるようになっている場合、これは「特定募集情報等提供事業」と見なされ、届出が必要になるからです。

すでに人材紹介・派遣の許認可を受けていても「特定募集情報等提供事業」の届出は別途必要になるので、自社のサイトが該当するかどうかはしっかり確認しなければなりません。

また実態として、人材紹介・派遣のオウンドメディアで集客を行うために、大手の人気求人をずっと掲載しつづけている場合があります。

実際にはもう募集終了している案件や、条件が変わっている案件がそのまま掲載されていることもあるため、的確表示の規制にのっとって措置を講じなければならない企業もありそうです。

求職者が仕事探しをしやすい環境をつくるために大事なこと

このように人材業界各社への影響が大きい今回の改正ですが、その分実効性はあるのではないかと考えています。

やはり、届出制になったことで国が監視しやすくなるわけですから、求人メディアとしてもルールを守ろうとするはずです。するとメディアから採用企業へのチェックが働くようになり、悪徳な求人は抑制されていくと考えられます。

また、今回「求職者からのクレーム・相談受付窓口の整備」も改正内容に盛り込まれています。求職者が運営会社に抗議しやすくなり、国もその実態をしっかり把握しにいくようになるでしょう。したがって、法改正の目的である求職者の保護には近づいていくのではないでしょうか。

今回、国が人材業界に求めていることは「ちゃんとした情報を提供し、求職者とのトラブルが起きないようにしてください」ということです。

その先には、官民でしっかり連携して求職者の仕事探しが成功するようにサポートしていこうという考えがあります。仕事探しが成功するとはどういうことなのか、我々は考えなければなりません。

企業は自社で働いてもらうため、活躍してもらうために人を採用します。しかしいつしか採用することがゴールになり、目的と手段が入れ替わってしまうのです。

虚偽の給与で採用された人材は当然「騙された」と思うでしょう。不信感を抱いたままで、その後の活躍が期待できるでしょうか?

目的に立ち返るとやはり、入社すればよいという考え方ではなく、その後の定着・活躍まで見据えた採用活動を行っていくべきです。

そのためには求人をよく見せることよりも、そもそもの労働条件をちゃんと改善し、真に人気企業になるための努力をすることこそが、遠回りのようでいて一番大切です。人材業界からも、そうした本質を見据えたサービス提供を行っていく必要があるでしょう。


著者プロフィール

菊池健生

株式会社フロッグ

代表取締役 /HRog編集長

2009年大阪府立大学工学部卒業、株式会社キャリアデザインセンターへ入社。転職メディア事業にて法人営業、営業企画、プロダクトマネジャー、編集長を経験し、新卒メディア事業のマーケティングを経て、2017年ゴーリストへジョイン。人材業界の一歩先を照らすメディア「HRog」の編集長を務め、2019年より取締役、2021年より株式会社フロッグ代表取締役に就任。会社URL:https://hrog.co.jp/