助成金制度の活用など企業側に求められる“サポート意識の向上”

 こうした問題はなぜ起きてしまうのか。

「育児に伴って従来のような仕事ができなくなり、そこへサポートが必要になるというのは当たり前のことで、避けようがない問題だからです。だからこそ、会社全体での協力が不可欠で、その舵取りをしていくのが経営者の責務です。こうした問題が顕在化しがちなのが、社内の誰か一人に肩代わりを押し付けてしまうような場面。一人の社員の善意に甘えるのではなく、サポートを輪番制にしたり、臨時で人を雇ったりなどの対応が必要でしょう。

 情報共有資料をデジタル化することで、負担を解消するなども考えられますね。例えば会議を録音・録画してその資料を育児中の社員と共有しておけば、会議内容を同僚が苦労してまとめておく必要もなくなります。こうした動きはなかなか社員から会社には進言しにくいものなので、会社側が率先して導入していくことが重要です」(同)

 今回のような問題が顕在化しやすいのは、人手が不足しがちな中小企業であり、中小企業こそ制度面でのサポートを積極的に取り入れていく必要があるとのこと。

「2021年に育児・介護休業法が改正され、『産後パパ育休』の制度が22年10月から施行されました。合わせて、2022年度から労働者の育児休業・介護休業をサポートする事業主に支給される『両立支援等助成金』という制度も見直しが行われ、男性の産後の育児休業を推進するため、『出生時両立支援コース』では、男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する育児休業を取得した場合に助成金が出ます。この助成金は、『子育てパパ支援助成金』とも言われ、対象は中小企業のみに変更されました。育児・介護休業法に規定している育児休業に関する研修や相談体制の整備などの雇用環境整備の措置を複数実施していたり、男性労働者が出生後8週間以内に連続5日以上の育児休業を取得したりすることなどを要件に、1事業者につき1回、一律20万円の助成金が支給されます。さらに、取得期間中に代替する労働者を新規雇用(派遣を含む)した場合には、20万円が加算されます。これは出産直後に活用できる助成金ですが、会社がこうした制度を活用するのも1つです。

 取得までのハードルが高いことで実践しない中小企業も多いのですが、取得に向けて動き出せばある種、強制的に育休に関しての意識や体制づくりが求められるので、もっと広まるべきだと思っています。加えて、先の諸条件をクリアして一度助成金を受け取り、かつ1事業年度以内に育休取得率が30%以上上昇した中小企業には、追加で60万円が上乗せされます」(同)

 このほかにも育児・介護休業法では、育児休業を取得せずに3歳に満たない子供を育てる労働者が申し出れば、いわゆる短時間勤務を講じなければならないなど、仕事と育児の両立を助ける制度はいくつもあり、それを知らない・実践しないことが問題を加速させている面もあるそうだ。では、これからの日本で、仕事と育児のバランスにまつわる問題がどうなっていくのか。

「今回のテーマである育児もそうですが、高齢化に伴う仕事と介護の兼ね合いも今後大きな社会問題になっていくと予想されているので、問題意識を高めてきちんとした対策を講じていかないと、今回のようなケースはもっと増えていく危険性があります。日本は、労働人口は減ることはあれども増えることは極めて難しいフェーズに突入しています。会社側が『労働者がどうしても休まねばならない状況に陥ること』を、イレギュラーなものとして扱うのではなく、当然起きるものとして対応していく姿勢がより求められてくるでしょう」(同)

 育児中の社員を取り巻く問題の根幹には、会社側が社員をサポートしていく意識不足があるのかもしれない。これらの問題意識の向上は、今後の日本社会・日本経済においてより重要な課題として浮き上がっていくのではないだろうか。

(文=A4studio、協力=吉田大樹/労働・子育てジャーナリスト)

提供元・Business Journal

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