ビル・ゲイツも「政治がすべてを決めるというのは単純な制度決定論だ。大事なのは資本主義の成長だ」と批判している。著者はそれに反論しているが、私はゲイツの批判が当たっていると思う。著者のいう「制度」の概念は曖昧すぎて、現実の開発政策にも役に立たない。

本書にもう一つ欠けているのは、国家間の競争だ。世界史上もっとも成功した大英帝国は、史上最悪の収奪国家だったが、世界の植民地から搾取した富で民主国家を建設した。歴史上、国家の命運を決めたのは戦争の勝敗であり、そのために経済力を蓄積した国が繁栄したのだ。

経済の興亡を決めるのが国家であってその逆ではないという著者の主張には賛成だが、国力を決めるのはみんなが民主的に参加することではなく、国家間競争に勝ち抜くすぐれた指導者の意思決定と国家体制である。むしろ民主政治のような非効率な制度は、豊かになった国が享受できる贅沢なのではないか。