アセモグル・ロビンソン・ジョンソンがスウェーデン銀行賞(ノーベル経済学賞)を受賞した。これは大方の予想通りだが、その主著は退屈だ(2013年6月11日の記事の再掲)。
著者(アセモグル)は成長理論で多くの業績をあげ、クラーク・メダルを受賞した学界のスーパースターである。彼が国家の成功と失敗を決める理論を展開するというので、本書は大きな話題になった。私も昨年、原著をKindleで買って読んだが、話が曖昧で単調なので投げ出した。今回、訳本で最後まで読んだが、印象は同じだ。
本書の理論はきわめて単純である:成功するのは包括的(inclusive)な国であり、失敗するのは収奪的(extractive)な国だ、という図式がいろいろな例をあげて示されるのだが、この対概念がよくわからない。どうやらinclusiveというのは民主的、extractiveというのは独裁的、という意味に近いらしいが、それだけでは歴史上の多くの国家の興亡を説明できないので、わざとこういう曖昧な言葉にしたようだ。
こういう話は開発経済学では新しいものではなく、世界銀行が一時推奨していたgood governanceに近い。民主化しないと経済的にも繁栄しないという話だが、これにはたくさんの反例がある。たしかに民主的な国には経済的に豊かな国が多いが、その逆は必ずしも成り立たないので、どっちが原因かわからないのだ。
君主制と官僚独裁で近代化を実現した日本、計画経済で成長したソ連、軍事政権で成長した韓国やシンガポール、そしていま最大の例外はbad governanceのもとで急速な成長をとげている中国だ。著者は、こういう開発独裁や国家資本主義は「長期的には」維持できず民主的になるというが、それは経済的に豊かになった結果として民主化すると考えることもできる。