ただ問題はフィブロイン溶液とアセトンの固化反応が数時間かけてゆっくりと起こることでした。

これではスパイダーマンのように瞬時に絹糸を発射することはできません。

そこでチームは以前から接着剤の製造に使われている「ドーパミン」を用いることにしました。

これは意外に聞こえるかもしれません。

ドーパミンは一般に脳内の神経伝達物質として知られ、やる気や集中力、気分の高揚などに寄与しています。

しかしドーパミンは自然界の生物も普通に作っており、特に化学分野ではそのドーパミン構造が接着剤の材料として役立つことがわかっているのです。

例えば二枚貝から分泌されるドーパミン含有タンパク質は水中でも安定した接着力を発揮することができます。

そしてドーパミンには溶液から水分を勢いよく引き離す働きがあるため、チームがフィブロイン溶液にドーパミンを混ぜたところ、急速な固化反応が生じることが確かめられたのです。

いよいよ、ウェブシューター実践!

次はいよいよ実践です。

チームは注射器のような容器にフィブロイン溶液を入れて、針の部分にアセトンの層を仕込みました。

またフィブロイン溶液を注射器から押し出すタイミングでドーパミン溶液と混ざって反応するよう、下のように別のチューブを針の部分につなげます。

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フィブロイン溶液とドーパミンを発射のタイミングで混ぜる / Credit: Marco Lo Presti et al., Advanced Functional Materials(2024)

そしてフィブロインとドーパミンが混ざった溶液が針穴のアセトン層に触れることで固化反応の引き金が引かれます。

固化反応により水分が空気中で急速に蒸発し、粘着性のある糸状の繊維だけが残され、接触するあらゆる物体に付着するのです。

さらにチームはフィブロイン溶液にキトサンという化学物質を加えて繊維の引張強度を最大200倍に、それからホウ酸緩衝液を加えて接着性能を約18倍にまで高めました。