アメリカ大陸最大のモノリスの呪いとは――。古代アステカ文明の雷雨の神を奉る巨大モノリスを発掘して移動させたところ、一帯は猛烈な雨に見舞われたのだった。
超巨大なトラロックのモノリスが発見される
古代アステカ文明においてトラロック(Tlaloc)は雨と雷の神であり、山頂に住むと信じられている。
トラロックは大雨、干ばつ、洪水、雹、雷雨、ハリケーンなど、水に関連するあらゆる種類の自然災害を引き起こすことができるとされているが、その一方で人間に対してはおおむね好意的であると考えられている。
トラロックが人間に好意的な理由の1つには、アステカの人々はトラロックに定期的に人身御供をしており、子ども含む生贄を捧げテスココ湖(Lake Texcoco)で溺死させていたのだ。
そしてこのトラロックをリスペクトした彫刻が施された巨大な一枚岩であるモノリスが、テスココ湖近くの小さな町、コートリンチャン近くの干上がった川床の茂みの中で1800年代後半に発見された。灌漑用の運河を掘る過程での予期せぬ発見であったのだ。
トラロックのモノリスは高さ7メートルもある巨大なもので、アメリカ大陸で発見された最大のモノリスであるといわれている。
学者たちはトラロックのモノリスが作られた時期をまだ正確には特定できていない。ある分析によれば西暦5世紀に建造されたと報告されたといわれているが、別の分析では8世紀に作られたはずであると主張されている。
1964年、メキシコ当局はメキシコシティで新たにオープンする「メキシコ国立人類学博物館」にこのトラロックのモノリスを設置することを決定した。博物館の入口に設置した雷雨の神で入場客を出迎えることにしたのである。しかしこれは簡単なことではなかった。
トラロックのモノリスは最も硬い岩の1つである安山岩でできており、重量は167トンにも達していた。運び出すもの運搬するのも容易なことではなかったのだ。
運び出す前には特別な傾斜路が作られ、運送では横に繋いだ2台のトレーラーの荷台に乗せられた。
古代の神、トラロックのモノリスの輸送は雨がほとんど降らないメキシコの乾季を選んで行われたのだが、モノリスが長い旅を終えて首都に到着した日、大雨を伴う激しい雷雨が発生し、多くの信心深いメキシコ人はそれを神の“サイン”であると認識した。
それでも無事にモノリスは博物館に到着して入口に設置され、そのインパクトのある威容で今も世界中の観光客を魅了している。