低価格の秘密!? それは徹底したシンプル装備

 ところでキャブライトの低価格設定には秘密があった。徹底的なシンプルな設計によって成し遂げられたものだったのだ。シンプル設計ぶりが端的に現れていたのは室内各部の仕立てで、内装には豪華なトリムはいっさいなく、金属パネルがむきだし。シートもパイプにクッションを貼っただけのハンモックタイプで、サイドウインドーの開閉は手動上下スライド方式だった。ラジオやライターはもちろんない。キャブライトのシンプルぶりは、1950年代末に発表された点を考慮しても徹底していた。メインライバルの3輪トラックも装備面はシンプルだったが、それを上回っていたほどだ。乗り味は乗用車ライクでも見た目や室内の雰囲気はスパルタンそのもの。そのスパルタンさは低価格を実現する工夫とはいえ、しだいにユーザーの不満点になっていく。

【クルマ物知り図鑑】オート3輪から4輪車の時代へ。ユーザーの夢を運んだシンプルなタフギア、1959年日産キャブライト
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 キャブライトのシンプルさは、キャブライトと同様に、3輪トラックをメインライバルに据えてデビューしたトヨタのトヨエースとは対照的だった。トヨエースは内外装ともに乗用車ライクな仕立てとしそれをセールスポイントのひとつとしていた。現在の目で見るとキャブライトのシンプルぶりは新鮮で、機能美を感じる。しかし当時のユーザーが求めていたのは機能美以上に豪華さだったようだ。キャブライトは人気が高かったものの、トヨエースを上回る販売セールスを記録することはついにできなかった。

対米輸出成功を記念した大胆なデビューキャンペーン

 キャブライトは、デビュー時に斬新な懸賞キャンペーンを展開した。なんとキャブライト50台が当たる「対米輸出記念・謝恩セール」と銘打ったキャンペーンである。「日本の自動車業界のトップを切ってダットサン乗用車の対米輸出に成功したことを記念するキャンペーン」と、当時メーカーでは説明していたが、実質的にはブランニューモデルであるキャブライトの知名度をアップさせることを目的としていた。

【クルマ物知り図鑑】オート3輪から4輪車の時代へ。ユーザーの夢を運んだシンプルなタフギア、1959年日産キャブライト
(画像=『CAR and DRIVER』より 引用)

 キャンペーン期間は、1958年7月1日から9月30日までで、期間中にダットサン、オースチン、ジュニア、キャブオールなどの日産各車を新車で購入したユーザーに抽選券1枚を進呈、抽選でキャブライトなど豪華商品が当たるシステムだった。商品は特賞がキャブライト50台、1等は電気冷蔵庫かテレビでこちらも50台、2等は電気掃除機(50台)、3等はトランジスタラジオ(100台)だった。すでに日産各車を購入したユーザーがさらにもう1台、キャブライトを欲しがるかどうかは別として、この懸賞キャンペーンは現在の標準でも豪華そのもの。大いに注目を集め、一気にキャブライトのネーミングが知れ渡ったという。