ティエン氏らの研究では、幻聴の背後にあるメカニズムを調べるため、幻聴のない統合失調症患者20人と幻聴のある統合失調症患者20人が集められ、健常者と比較されました。
「幻聴あり」グループ、「幻聴なし」グループ、「健常者」グループで、ある言葉を話そうとする時の脳の働きの違いを調べたのです。
その結果、幻聴の原因が自分の言葉を予測・認識する機能である「遠心性コピー(efference copy)」「随伴発射(corollary discharge)」の不具合にあると分かりました。
まず統合失調症患者である2つのグループでは、幻聴の有無に関わらず、「自分の声を抑制する機能」が低下していると分かりました。
これはつまり、統合失調症患者が、自分の発する声が脳で抑制されず、外部からの音として誤解しやすい状態にあると言えます。
この混乱状態は、心の中で声を発する時も生じるため、患者は心の声と外部の音を区別しにくい状態にあります。
加えて、「幻聴あり」グループだけが、脳内に残る「命令のコピー」にノイズが入り、必要以上に強調されてしまうと判明しました。
「健常者」グループや「幻聴なし」グループでは、このコピーは発声の直前で強化され、自分の声を適切に予測するための役割を果たします。
しかし、「幻聴あり」グループでは、特定の声を発しようとしていない時でもこの機能が過剰に活性化しており、脳内で無秩序な「雑音」が発生していました。
つまり、彼らは脳内でおきるこれらの作用によって、現実の音と思考を混同しやすい状態になっていたのです。
そして研究チームによると、この2つの負の要素が組み合わさることで、一部の統合失調症患者は、脳内の思考や雑音をまるで外部から聞こえる音のように認識してしまう可能性が高いのだという。