2%という数字はrがマイナスになったとき、政策金利を下げて景気を刺激するバッファとして設定されたものだ。

たとえば需要不足でrが-1%だったら、政策金利をゼロにしてもrより大きくなって「意図せざる引き締め」が起こってしまう。それを防ぐために金利にインフレ率でゲタをはかせるのだ。フィッシャー方程式によれば、

名目金利=実質金利+予想インフレ率

だから、インフレ率2%のとき政策金利(名目金利)をゼロにすれば実質金利は-2%になる。これはrより低いので緩和効果がある。

しかしこれは変な話である。ゼロ金利でも財政政策で需要不足を埋めることができるので、金融政策だけで景気刺激する必要はない。糊代論は中央銀行の都合でインフレという大きな社会的コストを作り出すものだ。

2%という数字も、rが-2%以下になることはないだろうという勘と経験で決まったもので理論的根拠はなく、黒田前総裁のいう「グローバルスタンダード」でもなかった。

インフレ目標から中立金利へ

よく混同されるが、インフレ目標はミルトン・フリードマンの提案したk%ルールとは別である。彼はインフレ目標には否定的だった。インフレ率は中央銀行が直接コントロールできないから、非裁量的ルールになりえないのだ。

k%ルールは中央銀行の直接コントロールできるマネタリーベース(現金)の増加率を一定に保つ非裁量的ルールだったが、うまく行かなかった。中央銀行は信用創造で生まれるマネーストックをコントロールできないからだ。

今ではもっと洗練されたルールがある。それが中立金利である。これは新ケインズ経済学(DSGE)で求める自然利子率rで、マクロ経済的には潜在成長率におおむね等しい実物変数である。直観的には、IS曲線と潜在GDPの交点として求められる。

Federal Reserve of San Francisco

予想インフレ率はブレークイーブンインフレ率(BEI)から求められるので、(名目)中立金利Nはフィッシャー方程式から