Netflix(ネットフリックス)が高額報酬によってプロデューサーや監督、脚本家など有力クリエイターを囲い込み、さらにテレビ局社員を引き抜くべく積極的なリクルーティング活動を展開しているようだ。低予算・短期間での撮影が常態化したテレビ局から、潤沢な制作費と長い制作期間をかけるネットフリックスへの人材流出に拍車がかかるとの指摘もある。

 2022年11月の広告つきプランの提供開始を契機に会員数が再び上昇気流に乗り、今年6月末の有料会員数は世界で2億7765万人に上るネットフリックス。現在、日本の月額料金は「広告つきスタンダード」が790円、「スタンダード」が1490円、「プレミアム」が1980円。エンタテイメント業界に向けたデータ×デジタルマーケティングサービスを提供するGEM Partnersの調査によれば、動画配信サービスとしては国内市場シェア1位となっている。日本で制作された作品としては現在、『地面師たち』『極悪女王』などが大きな反響を呼んでいる。

 ネットフリックスといえば多額の制作費をかけることが知られている。先月には『極悪女王』の企画・脚本・プロデュースを務めた元放送作家の鈴木おさむ氏がテレビ番組で、ネットフリックスの脚本料について「地上波の5倍くらい」と明かし注目された。

「キー局のプライムタイムの連続テレビドラマで脚本家に支払われるギャラは、一部のビッグネームの脚本家を除くと1クールで100万円くらいというのが相場で、それより安いケースもあります。全10話を2~3人で分担する場合は1人当たりの金額はこれを按分するかたちになります。脚本家に限らず演出や照明、カメラマン、助監督などすべてのスタッフもギャラは地上波のテレビドラマの数倍。ドラマや映画の制作スタッフは大半がフリーランスか制作会社の人なので、ギャラが高い動画配信会社の仕事のほうを好んでやるようになるのは当然です」(テレビ制作会社関係者)

「ドラマの制作現場などでは、人材が配信サービスのほうへ流れています。特に優秀な人ほど早く流出しています。ドラマを作るにしても桁が違う資金があり、さまざまな面で余裕があります。反対に、日本のドラマ制作の現場はどんどん世知辛くなっており、ドラマの脚本を直前に渡して、1週間程度で撮影する、といった流れ作業のような制作現場も増えています。労働環境もキツイ、ギャラも良くないという状況です。テレビドラマ『セクシー田中さん』(日本テレビ系)で、原作者・芦原妃名子さんの意向に反して脚本が改変されていたなどのトラブルが発端となり、芦原さんが亡くなった問題も、テレビドラマ制作の労働環境の過酷さが背景にあるといわれています」(上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏/9月27日付当サイト記事より)

 ネットフリックスの制作の特徴についてテレビ制作会社関係者はいう。

「基本的に企画から制作まで完全にネットフリックス仕切りで進められるため、よほど名のある有力なクリエイターや制作会社、テレビ局などからでない限り、外部からの企画の提案は受け付けられない。一方で、ネットフリックス向けの企画提案を専業にする会社もあるようです。また、日本法人は分厚い企画書を米国本社へ提出して、最終的には米国本社からゴーサインが出ないと制作に至らないため、一つの企画が通るのは非常にハードルが高いとも聞きます」

有力クリエイターを囲い込み

 ネットフリックスは有力クリエイターの囲い込みに力を入れている。昨年、『東京ラブストーリー』『最高の離婚』『カルテット』などで知られる脚本家・坂元裕二氏との5年契約を結び、坂元氏の新作シリーズ・映画を複数製作して独占配信していくと発表。今年7月、TBSで『池袋ウエストゲートパーク』『木更津キャッツアイ』『不適切にもほどがある!』などを手掛け、今年6月に同局を退職した磯山晶氏と5年間の契約を結んだと発表。9月には『地面師たち』の監督を務めた大根仁氏と5年間の独占契約を締結した。

 ネットフリックスが囲い込む対象は個人だけではない。22年にはアニメ制作会社のスタジオコロリドと長期契約を締結し、長編アニメーション映画3作品を数年かけて共同制作すると発表した。23年にはサイバーエージェント傘下のドラマ映画制作会社BABEL LABELと業務提携し、5年にわたり共同制作した作品を世界に配信することを決めた。

「アニメやドラマ、映画では、下請けとなる制作会社がものすごい低い制作費で長時間労働を強いられるという環境が常態化してきました。動画配信会社が成長し、制作の担い手への需要が高まっており、ネットフリックスやAmazon Prime Videoなど資金力がある外資系企業が制作会社と長期契約を結んで高い制作費を払ってくれる動きが広まることは、これまで安い金でキー局にこき使われてきた制作会社としては願ったり叶ったりでしょう」(テレビ制作会社関係者)

「テレビ局のドラマより制作費が桁違いに高いため、プロデューサーや監督、脚本家、スタッフへのギャラは高い一方、監督や脚本家など主要なスタッフは制作期間中は他の仕事との掛け持ちが許されない決まりになっているという話を聞いたことがあります。また、テレビドラマの場合は放送日が決まっている都合上、撮影含めて制作期間がタイトになりがちですが、ネットフリックスは比較的、配信日を柔軟に動かせるため制作期間に余裕があるようです」(別のテレビ制作会社関係者)