この結果は放射線を遮ったことで、細胞が逆に元気を無くしてしまったように見えます。
そこで、今度は逆に箱内に放射線源を設置して自然放射線レベルの環境に戻して見たところ、ゾウリムシの細胞分裂は増加に転じて、通常の分裂を繰り返すようになったのです。
この事実は、「生物は常に低線量の自然放射線が存在する環境下で生きており、その放射線は生命維持の機能に重要な役割を果たしている」と解釈されています。
最近においても、高線量の放射線の影響からは予測できない、有益な効果が低線量では相次いで報告されており、同効果の研究は放射線生物学の中心的な課題の一つとして注目されています。
ホルミシス効果とは
ホルミシスは、低線量ではむしろ放射線が生物にとって有益な効果を生むという考え方です。
これは、上図の模式的な放射線量−作用(応答)曲線により示すことができます。
横軸が放射線の線量、縦軸がしきい値を挟んで上が生物への有益性(刺激)、下が有害性(悪影響)を示しています。
右下がりの直線(LNT説)は、放射線がどの領域でも生物学的にはプラス効果が無く、有害なマイナス効果のみが線量と共に増加するという考え方を示したもので、しきい値無し直線モデル(LNTモデル:Linear Non-Threshold Model)と呼ばれています。
これは、たとえ少しの線量の放射線でも生物には有害であるという考え方であり、放射線防護に基づく国の規制方針はこの厳しい考え方に基づいています。
一方、曲線の方(ホルミシス説)は、低線量においては、ピーク値を持つプラス効果の領域が現れるということを示しています。
さらに線量を上げていくと、効果がないゼロ相当点(しきい値)にまで低下し、その点を境として線量が増えるにつれて有害なマイナス効果が増加することになります。