荒涼たる砂漠の大地をさまようイスラエルの民を飢餓から救った「マナ」とはいったいどんな食べ物だったのか。旧約聖書の中に登場するこのミステリアスな食材について、学術的にいくつかの見解が登場しているようだ。
■イスラエルの民を救った天の恵みの食物“マナ”とは
『旧約聖書』の「出エジプト記」では、それまで奴隷状態であったイスラエルの民(ユダヤ人)がモーセに率いられてエジプトを脱出した顛末が綴られている。
エジプトの地で400年以上も奴隷として使役されていたイスラエルの民を憐れんだ神は、彼らを救い、奴隷制から解放し、彼らが先祖に約束したカナンの地へと向かわせることを決心した。そして神はモーセをリーダーに選び、疫病が蔓延するエジプトからイスラエルの民を急いで出国させたのである。
疫病の感染拡大のために急いで旅立った人々には十分な食料を用意する時間はなく、数日間荒野を旅した後、持参してきた食糧はたちまち底をつき食糧難に直面する。
神はイスラエルの民の心配を打ち消すために、モーセに「人々が食べて生き残るために、天からパンを降らせる」と伝えた。ある朝、人々は荒野の一帯が白い物質で覆われているのを見て驚く。これこそが後に「マナ(Manna)」と呼ばれる謎の食物である。
マナは旧約聖書の「出エジプト記」をはじめ、「民数記」、「申命記」、「ヨシュア記」、「ネヘミヤ記」、「詩篇」など多くの本で言及されている。聖書によれば、マナはパンのような物質で、色は白で、蜂蜜のような味がすることが記されている。
イスラエルの民は毎朝このマナを集め、それを挽いて粉にして焼いてパンやケーキにしたり、茹でたりして食べたという。オリーブオイルを使って焼いたマナのケーキは、ペストリーのような味わいであったり、蜂蜜で作ったウエハースのような味であったという記録も残されている。
文献によると、マナは「天使のパン」とも呼ばれ、雪のように天から落ちてくるものであると信じられていた。聖書のマナはまた、イスラエルの人々が荒野を旅している40年もの間、神がイスラエルの人々に配慮していた証であると考えられている。
興味深いのはマナは新約聖書には登場していない。新約聖書ではパンにまつわる言及が多いが、ある人々は新約聖書で言及されているパンは、旧約聖書のマナでもあると指摘している。
またマナは朝にその日の1日分の量を確保することが求められていて、欲張って2日分以上を集めると食べきれなかった分はすぐに痛んだり虫に食われたりしたという。ただし金曜日の朝だけは、翌日の安息日(金曜日の日没から土曜日の日没まで)に備えて2日分のマナを確保することが許され、そのマナは次の日も悪くなることはなかった。つまり土曜日の朝はマナは降ってこなかったのである。