- 田んぼダムの効果
田んぼダムによる防災・減災効果について述べる。
愛知県安城市の堀内川流域にある水田4.08haの貯留量(水路流量調整方式)は、田んぼダムの整備前は2,611m3、整備後は3,982m3に増加すると試算結果※1)が出ている。また、新潟市亀田郷地域では、1998年8月豪雨の規模の降雨時に田んぼダムを実施した場合、田んぼダムを実施しない場合と比較して鳥屋野潟のピーク水位は約17cm低下し、浸水域を26%、氾濫水量を31%低減できる試算結果が出ている※5)。
以上のように、田んぼダムの取組みによってピーク流量を低減することで、下流地域の被害リスクの低減が明らかである。ただし、水田を有する全ての地域で田んぼダムの取組みが効果を発揮する訳ではなく、地形や流域面積に占める水田の割合などを考慮した適地の選定が必要となる。
- 水系主義の強化へ
河川は源流から河口まで複数の地域を流れているため水系毎に管理されている。一級河川は国土交通省、二級河川は都道府県、準用河川や一般河川は市町村が管理している。
流域面積が最も広い利根川(16,842km2)は、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、長野県の1都6県にまたがる。そのため、利根川水系における流域治水を考える際に、上流地域から下流地域までを含む1都6県の関係市町村の連携が求められる。
下流地域での洪水被害を軽減するためには上流地域において田んぼダムを実施する必要がある。しかしながら、先に述べたように田んぼダムの実施にはコストと手間が必要となるため、負担側となる上流地域の農家にとってインセンティブが働かない仕組みのままでは田んぼダムの普及は進まない。
田んぼダムが最大限の効果を発揮するためには、このような受益者と負担者が一致しない問題に対して、行政のサポートが必要となる。例えば、田んぼダムの設置や管理に伴う経済的支出を行政が負担することで、上流地域の農家が田んぼダムを実施するハードルが下がる。ここで指す「行政」は田んぼのある上流地域ではなく、受益者となる下流地域も含まれるべきであろう。
既存の行政の枠組みを超えて、流域全体の連携を強化させるためには、行政、住民共に上流地域と下流地域が1つの共同体という意識を醸成する必要がある。
歴史を振り返ると、日本人は洪水との戦いに打ち勝つために様々な知恵を絞ってきた。例えば、武田信玄は信玄堤によって度重なる洪水から甲府盆地を守り、稲作地域へと発展させることで、住民の豊かな暮らしを実現させた。
人間が生きるためには水が必要であり、河川のおかげ多くの恵みを享受してきた。激甚災害が増える昨今においても、河川と上手に付き合っていくことが求められているのではないか。
日本地図を眺めると自治体間の境界線が河川上に引かれており、河川は地域における「端」という印象である。河川は日本の歴史や文化に深く関係している。せっかくなので、この機会に河川を中心とした共同体、水系を軸とした新しい国土の形を考えていきたい。
【参考文献】 ※1)国土交通省:第1回グリーンインフラ大賞 国土交通大臣賞・優秀賞受賞事例,(参照日2024-06-02) ※2)農林水産省農村振興局整備部:「田んぼダムの手引き」,令和4年4月 ※3)農林水産省:多面的機能支い交付金,(参照日2024-06-02) ※4)椿一雅:水田の有する多面的機能を活用した地域防災の取組,農業農村工学会誌,85,No.12,pp.7-10,2017. ※5)吉川夏樹:グリーンインフラとしての水田の役割と田んぼダムの可能性,ランドスケープ研究86,No.1,pp16-19,2022.
政治
2024/10/06
水田と防災:「田んぼダム」から考える水系主義
『アゴラ 言論プラットフォーム』より
2024年6月9日公開記事
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