日本最大の鉄鋼メーカー、日本製鉄がこともなげに合弁事業である中国の宝鋼日鉄自動車鋼板からの撤退を発表しました。同事業は50%を日本製鉄が、50%を中国宝武鋼鉄集団が支配する関係でした。

日本製鐵名古屋製鉄所 Wikipediaより

この別れ話には特別の感があります。田中角栄氏が結んだ日中国交正常化を踏まえ、その記念事業を探る中で周恩来首相が当時の新日鉄の稲山嘉寛社長と会い、次いで副総理だった鄧小平氏が来日し、千葉の君津にある同社工場を訪れ、「これと同じものを頼む」としたとされます。

その後、建設が決まったものの紆余曲折ぶりは山崎豊子氏の「大地の子」をお読みになった方ならお分かりいただけるでしょう。山崎豊子氏はこの小説のために3年間中国を取材し続け、驚くことに胡耀邦総書記との会談も実現させてしまいます。後にも先にも民間人が個別に公式に中国の総書記と会うことはなかったと思います。また山崎氏もたしか後日談であのタイミングでなければ会談はなかったと述べていたと記憶しています。

小説はずいぶん前に読んだので細かい記憶は薄れていますが、政府レベルの握手が必ずしも民間レベルで直ちに同様の関係が築けるわけではない中、当時の新日鉄の苦労ぶりは山崎豊子氏ならではの筆力から読み手を一気に誘い込むものでした。あれは圧巻でした。