自由党と国民党はその政治信条は似ている。特に、移民政策では国民党はここにきて自由党のそれに負けないほど強硬政策を主張し、国境の監視強化、不法移民・難民の強制送還などを実施してきた。ただ、対欧州連合(EU)や安保政策では自由党は国民党とは異なり、EUに対して批判的である一方、ロシアに対しては融和的な姿勢が目立つ。対ウクライナ支援でも消極的だ。

参考までに、政権を組閣するためには議席の過半数を占める必要があるが、その条件をクリアできるのは、①自由党と国民党の連立政権、②国民党を主導として社民党と連立を組む、③国民党と社民党に「ネオス」を加えた3党連立、④国民党・社民党・それに「緑の党」の3連立だ。

ネハンマー首相は選挙戦で何度も「自由党とは連立しない」と宣言してきた。そこで現地メディアも最も現実的なシナリオとして③のシナリオだ。これまでオーストリアで3党連立政権は経験していない。実現すれば、隣国ドイツのショルツ連立政権(社民党、緑の党、自由民主党)と同じ状況となる。

自由党は連邦レベルの選挙で初めて第1党となった。文字通り、「歴史的な成果」だが、同時に、「人民首相(Volkskanzler)となりたい」といったキックル党首の夢は実現できそうにない。ドイツの極右「ドイツのための選択肢」(AfD)もテュ―リンゲン州議会選で第1党となったが、AfDの州代表ヘッケ氏が州首相に就任するのが難しいのと同じだ。

右翼ポピュリストのキックル党首は選挙結果を「オーストリアの方向転換のシグナルだ。有権者は今日、自分の言葉を伝えた」と述べている。ちなみに、ドイツの高級誌「ツァイト」は29日、「オーストリア選挙では自由党が勝利した。たとえヘルベルト・キックル氏が首相になる可能性はなかったとしても、彼は一つのことを達成した。それは、彼の右翼扇動が社会的に受け入れられるようになったということだ」と指摘している。