総合商社の伊藤忠商事が、2025年度の社員の平均年収を24年度見込みから10%程度引き上げる方針であることが話題を呼んでいる。だが、「三菱商事・三井物産の2トップと伊藤忠の間には歴然とした格差が存在する」(伊藤忠社員)との声も聞かれる。その“差”とは何なのか。総合商社社員たちの見解を交えて追ってみたい。

 伊藤忠は2025年度の社員の平均年収を24年度見込みから10%程度引き上げる。24年度の純利益の計画値8800億円の達成が条件だが、改定後の成績優秀者の年収は、「BAND6(部長)」が4110万円、「BAND5(課長)」が3620万円、「BAND4(課長代行)」が2970万円、「GRADE3(担当者)」が2500万円となる。岡藤正広会長CEO名で書かれた文書「年収水準見直しについて」には、

「来期以降の処遇を大きく改善し財閥系商社に負けない水準の制度に改訂する」

「三菱商事及び住友商事と同じ業績を達成した場合には、両者と同水準となります」

「日本経済界でも突出した高給になります」

などと書かれており、競合他社を意識した施策であることがうかがえる。

 この文書で名指しされた三菱商事も、少し前に社員の賃金をめぐる話題が注目されていた。日本経済新聞社がまとめた「2024年夏のボーナス調査(中間集計)」により、今年夏の平均賞与支給額が641万円にも上ることが明らかになったのだ。

伊藤忠商事と三菱商事の利益構造

 財閥系商社とされる三菱商事・三井物産・住友商事に対し、伊藤忠は非財閥系と称され、財閥グループの力を頼れないなか独立独歩で業績を拡大。その積極果敢な社風から「野武士集団」ともいわれてきた。業績的には長きにわたり三井物産と三菱商事の後塵を拝してきたが、16年3月期に最終利益ベースで初めて業界1位に浮上。以降、三井物産、三菱商事と毎年、首位争いを演じている。5大総合商社の直近の24年3月期連結決算の純利益は以下のとおり。

  社名     純利益
・三井物産   1兆636億円
・三菱商事    9640億円
・伊藤忠商事   8017億円
・丸紅      4714億円
・住友商事    3863億円

 伊藤忠の特徴として指摘されるのが、総合商社のなかでBtoC事業、DX事業に強いという点だ。参考に伊藤忠と三菱商事の23年度の各事業の当期純利益の構造をみてみよう。 

【伊藤忠商事】
・繊維:270億円
・機械:1316億円
・金属:2261億円
・エネルギー・化学品:917億円
・食料:663億円
・住生活:662億円
・情報・金融:678億円
・第8:358億円

【三菱商事】
・天然ガス:2195億円
・総合素材:644億円
・化学ソリューション:95億円
・金属資源:2955億円
・産業インフラ:427億円
・自動車・モビリティ:1414億円
・食品産業:149億円
・コンシューマー産業:493億円
・電力ソリューション:920億円
・複合都市開発:415億円

 伊藤忠商事の「第8」には完全子会社ファミリーマートをはじめとする小売などが属し、「情報・金融」には伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)を中心に手掛けるDX関連が属する。三菱商事の子会社であるローソン、スーパーマーケットのライフコーポレーションは「コンシューマー産業」に属し、三菱商事は今年度からローソンやライフなどBtoCビジネスを「S.L.C.」という新たな事業区分にまとめ、同事業の連結純利益を24年度には1850億円まで拡大させる見通し。