■初めての「おかしな現象」に遭遇
かつて筆者は豪州に語学留学をしていた。そろそろ学生ビザの期限も近く、留学費用も底を尽きかけていた1998年の夏(南半球では12〜3月)のある日、授業を終えて帰宅途中、公園を歩いていた時にふと気付いた事がある。通学のために毎日歩いていた通路に、公園があるのだが、そこには木など一切生えていなかったはずなのに、かなり前からそこに植わっていたかのような木を見つけてしまったのだ。確かに、それまで木はなかった。それは記憶違いなどではないと思っていたが、そこまで周囲に気を配りながら歩いていたかと問われれば、怪しい部分もある。だが、それでもこんな記憶違いをするなんてありえるのだろうか、と当時は強い違和感を覚えたものだ。しかし、筆者はここである“夢”を思い出した。
この不思議な体験が起きる半年ほど前の1997年の冬、筆者は睡眠中に奇妙な夢を見た。まるで天国のような巨大な門の前にいて、門番に「この先には何があるのか」と訪ねると、「ここは『パンデモニウム』であり、ここから先は何人たりとも進めない」と言われた。そして、目覚めるとこの言葉が記憶に残っており、すぐに学校のパソコンで日本語で解説してくれているサイトを見つけた。そのサイトの管理人によると、「パンデモニウム」は日本語で「万魔殿」と呼ばれ、その門番は時空を支配する旧神「ヨグ=ソトース」であるという。ヨグ=ソトースは、時空を転々と移動できる異形の存在だが、一度気に入られたり見つかってしまうとパラレルワールド間を弾き飛ばされるという。
つまり、公園での違和感の正体とは、筆者がヨグ=ソトースに見つかってしまった為にパラレルワールド、もしくは「ちょっとだけ違った世界」に飛ばされたのではないかと思ったわけだ。
そして、実際に公園の一件の後も、筆者は前の世界の記憶を保ったまま、他の世界に飛ばされることを複数体験した。そのことは、次のような手順でわかる。とある瞬間、前の世界の記憶と擦り合わせると景観が変わってしまっていることに気づく。そしてその事を他の人々に尋ねると、皆一様に「怪訝な表情」を浮かべて、それはずっと前からそうだと説明される。筆者としては納得が行かないのだが、前の世界線に戻れる確証もない為、その世界に馴染むことに決める――。
そのような体験を何度か経て、筆者は「もしかすると、パラレルワールド間を一方通行で移動しているのではないか」と思うようになった。