少し前にインターネット上に書き込まれた「個人事業主になって気がついた衝撃の事実」「会社員から個人事業主になったけど、税金や国民健康保険費が高すぎて売上の半分しか手元に残らない」という投稿が一部で話題となっていた。PC作業のデスクワークで朝から晩まで請負の仕事をするというその投稿主は、月の売上が60万円ほどで、税金や子ども2人分の国民健康保険料などを含めた社会保険料を差し引かれて最終的に手元に残る額が、30万円ほどになってしまうという。投稿主は激務のあまり体調を崩すこともあり、貯蓄もできず、子どもを養っていけるか心配になっていることから、会社員に戻ることも検討しているという。
なお前提として個人事業主の所得は、売上高から必要経費、各種所得控除を差し引いた額となる。そのため売上がどんなに高くても、経費などがかさんでいると実際の手取り額はそれほど高くならない。
職種は何であれ、会社員から個人事業主に転身して働きたいと考える人は少なくないはず。ただ、人間関係に縛られず自分の好きなタイミングで働けるという魅力はあるが、その分、事務作業や決算作業、売上に頭を悩ますなんてことも考えられる。果たして個人事業主として開業するためには、どんな知識や心構えが必要なのだろうか。そこで今回は、M&Nコンサルティング社会保険労務士・行政書士事務所代表の中谷充宏氏に解説してもらった。
実力があれば稼げるけど…国保は全額自腹
まず簡単に会社員から個人事業主になるメリット・デメリットについて聞いた。
「メリットについてですが、やはり好きな時間、好きなタイミングで働けるという点にあるでしょう。会社員とは異なり、就業時間も就業日も決まっていませんので、休憩も休暇も取るのは自由。自分のペースで仕事がしやすくなります。また生産性が高く、かつ希少価値の高い能力・実績を持ってさえすれば、売上高を伸ばしやすいことも大きな魅力ですね。
逆にデメリットは、メリットと表裏一体で24時間365日、経営者の視点を持たなければいけないということ。特にスタートアップ時は、常に売上のことで頭がいっぱいになり、仕事とプライベートの境目がなくなってしまう傾向にあります。そして完全実力の社会なので、自分の稼働時間が収入に直結してしまうのも特徴。加えて、実績や経験がないまま個人事業主になると、発注者から足下を見られるケースも少なくなく、相場より安い金額でこき使われてしまう懸念もあるでしょう。
会社員時代は他部署の社員が担ってくれていた営業や事務作業、経理などの業務をすべて自分で行う必要もありますし、確定申告を行わなくてはいけません。煩雑な申請処理を通常の業務と並行して作業することは、やはり会社員と比べて負担が大きい部分でしょう」(中谷氏)
それだけでなく、個人事業主は会社員と比べて、社会保険料の負担も留意しなければならないという。
「多く稼がないと所得税の税率はアップしませんし、住民税は一律で、会社員も個人事業主もこの条件は変わりません。また、会社員であれば企業が社会保険に加入していますが、個人事業主は厚生年金ではなく国民年金に入ることになるので、老後に支給される年金額は減ってしまうものの、現役時代に支払う月々の年金額は安くなります。
ただし、注意しておきたいのは、個人事業主は国民健康保険に加入しなくてはいけないということ。会社員であれば、企業が社会保険に加入していて健康保険の半額を負担してくれますが、個人事業主の場合ですと国民健康保険に加入することになり、すべて自分の負担になってしまいます。しかも、子どもがいる場合ですと、さらに保険料は上がりますので、当然手取り額がいっそう減ってしまうわけです」(同)