睡眠は未来予知の手段でした。

アメリカのミシガン大学(U-M)で行われた研究により、睡眠中の脳では記憶の安定化が行われるだけでなく、未来のリハーサルも同時に行っている可能性が示されました。

研究者たちはプレスリリースにて「夢の中には未来を予言するものがある。新たな研究により、睡眠中に一部のニューロンが記憶を再現するだけでなく、将来の経験を予期していることがわかった」と述べています。

しかし脳はどんな方法で「未来の予測」を実現していたのでしょうか?

研究内容の詳細は2024年5月8日に『Nature』にて発表されました。

睡眠中の脳は記憶の一部を改ざんして起こり得る未来を描く

睡眠中の脳は記憶の一部を改ざんして起こり得る未来を描く
睡眠中の脳は記憶の一部を改ざんして起こり得る未来を描く / Credit:Canva

睡眠は記憶と学習にとって非常に重要です。

睡眠中の脳は、起きている間に経験したことを脳内で繰り返し再現し、短期記憶を安定した長期的記憶に変える役割を果たしています

この現象は、人間や動物が新しい家や迷路に慣れるときにも見られます。

たとえば、ラットの脳では、寝ている間に現実世界の環境に対応した場所細胞が活発に働いています。

場所細胞とは、ラットが迷路を歩いている際に特定の場所に反応して発火する神経細胞のことです。

ラットが眠っている間でも、これらの場所細胞はまるで迷路を実際に歩いているかのように発火し続けており、記憶の安定化が起こります。

そのためラットが迷路を探索した後、十分な睡眠を取ると、次に迷路に挑戦したときに速く正確に攻略できるようになるのです。

この現象は、私たち人間が睡眠後に楽器演奏やスポーツのスキルが急激に向上するのと本質的に似ています。

例えば、ピアノの練習後に睡眠を取ると、練習している最中にはどうしても上手くできなかった部分がスムーズに演奏できるようになります。

これは、睡眠中に脳が練習内容を整理し、神経回路を強化するためだと考えられています。

(※近年の研究では、スキルの上達は必ずしも睡眠だけでなく、短い球形で起こることも示されています。)

練習中ではなく「頻繁な休憩」がスキルを上達させると判明

 

しかし睡眠後に起こる不思議は「スキルの上達」だけではありません。

目が覚めると、これまで全く思いつかなかったアイディアや、新たな問題解決の糸口を思いつくことが知られています。

このような新たな解決法や切り口の思いき、単なるスキルの上達とは別の現象です。

新たなアイディアは、既存の記憶の部分的な崩壊や融合がもとで起こりますが、それが脳活動の不規則化に由来するとの考えです。

また稀に人々は未来を予想するかのような夢をみますが、このような予知夢的なものも、過去の記憶を安定化させるだけでは起こり得ません。

そこで研究者たちは、斬新なアイディアの思い付きや予知夢的な現象がおこるのは、睡眠中に記憶の安定化を行っているニューロンたちの中に反逆者が現れ、活動パターンを変調させることが原因であると考えました。

厳しい自然界で生き抜いてきた人類は、体験した記憶を忘れないようにする一方で、記憶に対してある種の改ざんを行い、アイディアの発見やこれから起こり得る物事の予想に役立てていた可能性がありました。

実際に心理学や神経科学の分野では、夢には将来の出来事に備えるためのシミュレーション的な役割があるとする理論があります。

たとえば親しい人が死んでしまうような悪夢は、強烈な感情やストレスを伴う経験を処理し、現実世界で同様の状況に直面したときによりよく対処できるようにするためのメカニズムである可能性があると考えられています。

また生物学的には、悪夢は危険な状況をシミュレートし、個体がそのような危険な状況に対処するための対処法を考えさせる手段として進化してきたと考えられています。