凍てついた南極の氷河を真っ赤に染める不気味な滝が1911年に発見されている。“血の滝”と名づけられたその物騒な現象はどうやって起きているのか――。
南極の“血の滝”の秘密
南極大陸東部のロス海西岸地域、ヴィクトリアランドのテイラー氷河の突端では、氷がまるで血で赤く染まったかのような目を疑う光景を見ることができる。
“血の滝(Blood Falls)”と呼ばれるこの鉱床は、オーストラリアの地質学者、トーマス・グリフィス・テイラーによって1911年に発見された。南極探検家たちは当初、この血のような赤色は紅藻によるものだと考えたが、後に酸化鉄によるものであることが判明した。
ほとんどの南極の氷河とは異なり、テイラー氷河は岩盤まで凍っていない。その理由は氷河の下に閉じ込められていた古代の海水の結晶化によって濃縮された塩が存在するためであると考えられている。
たとえば真冬に雨が降った際に、路面が凍結しないよう塩を撒いたりすることがあるが、塩水は氷点降下が大きくなり濃度の高い塩水はマイナス20度くらいまでは凍らないのである。テイラー氷河の下にある海水は平均的な海水の2~3倍の塩分濃度であると考えられている。
そしてこのテイラー氷河の下にある海水は酸素が含まれておらず、その代わりに硫酸塩と鉄イオンが豊富に含まれている。この海水が地表に湧出して酸素に触れると真っ赤に変色し、まさに血の色になるのである。
どうしてここの海水だけがこれほどまでに硫酸塩と鉄イオンが豊富に含まれているのか。そこにはここでしか見られないユニークな微生物の生態系の存在があるという。
米アリゾナ州ツーソンの「Planetary Science Institute(惑星科学研究所)」やジョンズホプキンス大学などの合同研究チームが2022年5月に「Frontiers in Astronomy and Space Sciences」で発表した研究では、高性能の透過型電子顕微鏡を使用して血の滝のサンプルを調査、分析している。
顕微鏡画像を詳しく分析すると鉄分以外にもシリコン、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムなど、さまざまな元素が多く含まれていた。さらに数々の微生物が含まれており、これらの微生物はこの隔絶された環境で何百万年も前から存在していた可能性があるこことがわかってきたのだ。