では、その「平和の公式」を実現するために、「勝利計画」は何を目指すのか。NATOやEUの早期加盟を促す内容や、復興支援の呼びかけが含まれているようだ。だがそれらは従来から明らかになっていることであり、しかもどちらかというと戦後にとるべき政策に関わる事項だ。
ゼレンスキー大統領が、「勝利」のための「計画」の柱として認識しているようであるのが、ロシア領土への攻撃である。そのために「勝利計画」は、長距離兵器を含む支援国提供兵器の無制限の使用の許可を要請しているらしい。ゼレンスキー大統領が、繰り返し強く要請し続けていながら、まだ実現していない事項だ。
さらにゼレンスキー大統領は、クルスク侵攻作戦は、「勝利計画」の一部だ、という認識も披露してきている。また、自国の兵器生産能力を高めてウクライナ製の長距離兵器を開発・生産していきたい意向も示している。
これらをまとめると、ゼレンスキー大統領にとって、「勝利計画」とは、ロシア領土の攻撃、ということになる。ウクライナがロシア領を深く攻撃する能力を高めれば高めるほど、ウクライナの勝利の見込みも高くなる、という考え方が、すでにゼレンスキー大統領の一連の発言から、顕著になっている。
なぜロシア領を攻撃すると、ウクライナは勝利するのか。ウクライナにとっての勝利とは、「平和の公式」を構成するロシア軍の撤退や占領されている領土の回復ではなかったのか。
確かに、ロシア領内のロシア軍の武器供給ラインへの攻撃などは、ウクライナ占領地におけるロシア軍の動きを鈍化させる効果を持つだろう。実際に、ウクライナ軍は、ロシア領内の兵器貯蔵庫などへの攻撃をこれまでも繰り返し行ってきている。また、主にドローンを使用しているとされる攻撃能力を高めている様子も見られる。
だがゼレンスキー大統領がロシア領への攻撃にこだわるのは、武器供給ラインへの攻撃だけが理由ではないようだ。むしろゼレンスキー大統領は、「心理戦」への関心を、繰り返し表明してきている。