その夜、男は家族と一緒に夕食を摂っていた。普段なら楽しい一家団らんの場となるはずであったが、この日、男は何か考え込んでいるように見えた。息子が山盛りのマッシュポテトの皿を差し出すと、父親はそれを全部自分の皿にすくい取り、なにか懸命に山のようなものを形作り始めた。その光景に異様な雰囲気を感じた幼い子どもの泣き声に、男はふと我に返り、自らが作ったデンプン質の山岳模型をまじまじと見つめた。それから一言、ポツリと言った。

「何か意味があるはずだ」

■世界中の人が“同一のメッセージ”を受け取っていた

 ここまで読んで、スピルバーグの伝説的な映画『未知との遭遇』(1977年)の1シーンを思い出した人もいるだろう。だが、これは1993年、英国人のマイケル・ディロンに実際に起きた事なのだ。このときディロンの皿には、アイスランドの火山、スナイフェルスヨークトルを思わせる形態が残されていた。

 マイケル・ディロンは、それ以前から宇宙人の通信を受けている所謂コンタクティーの1人だった。宇宙人からの通信には、「スナイフェルスヨークトルに人々を集めるように」というものもあった。さらにディロンは、その年の11月5日、午後9時7分、宇宙人がこの火山の頂上に着陸するという連絡を受けた。

 ディロンは直ちにこれを公表し、アイスランドのUFO研究団体とも連絡を取った。すると、同じような宇宙人の通信を受けたとする者が何人も現れた。そして、予定日に先立つ11月初頭には、何百人もの研究家や目撃者、コンタクティーなどが世界中からレイキャビクに集い、一種のUFO集会が始まった。参加者の中にはアメリカの軍人やイギリスの警察官、FBIやCIAの職員まで含まれていたという。

 こうして冬のレイキャビクには時ならぬ熱狂が巻き起こり、地元の新聞やテレビもこの模様を連日報道した。前年の1992年からアイスランドでUFO目撃が多発し、さらにこの事件の少し前からテレビドラマ「X-ファイル」の放映が始まったことも騒ぎを大きくした原因の一つだろう。そして、ついに運命の時間が訪れる。