そして脳と体はさまざまな種類の神経で接続されており、脳からの命令と体からの感覚が行き来しています。
国から難病として指定されている筋萎縮性側索硬化症(ALS)では、脳の命令を体に伝達する運動ニューロンに障害が発生し、機能が停止してしまうことが知られています。
そのためALSが進行した患者では、意識や感覚がハッキリしていながら外部へ一切の働きかけができなくなり、精神が脳の中に閉じ込められた状態に陥ってしまうケースが知られていました。
(※脳と体の連結部(脳幹)を物理的に損傷した場合にも「閉じ込め症候群」と呼ばれる症状が発症しますが、ALSとは発生原理が異なります)
ドイツの病院に入院していた32歳の男性(仮称:ジョン)も重度のALSを患っており、唯一の可動部位であったまぶたや瞳の動きも止まろうとしていました。
まぶたや瞳の動きはジョンにとってYES・NOといった最低限の意思表示をする唯一の手段であり、これらが失われた場合、ジョンの精神は脳の中に完全に閉じ込められ、二度と外部に意思を届けることができなくなります。
そこで今回、テューヒンゲン大学の研究者たちは、ジョンに対して64本の針のような電極を搭載したマイクロチップを2つ、脳に埋め込む提案を行いました。
電極が感知した脳の電気活動を読み解く(デコードする)ことで、ジョンの意思をジョンの体を経由せずに脳から直接、知ることが可能になります。
ジョンは研究者たちの申し入れを受け入れ、ジョンの脳の2カ所に電極群が埋め込まれまれることになります。
しかしジョンにとっては、ここからが試練となりました。