前任のアタル首相は35歳で最年少の首相だったが、バルニエは73歳で最年長の首相だ。このことは、2027年に予定される大統領選挙での立候補は可能性が薄く、それがマリーヌ・ルペンにとってもっとも好ましいことなのだ。
それでは政策ではどうかというと、マクロン大統領にとってもっとも大事な、年金改革(RNも左派も反対)を後戻りさせないと思われるし、外交では親EUであることは明かだ(これは左派連合でも半分は同じだ)。
そして、移民とLGBTなどについては、RNも納得できるほど強硬派として知られている。
そんなわけで、今回の構図は、左派連合が極左と言われる「不服従のフランス」や共産党も含めた閣僚による政府に固執し、また、首相候補にもジュリー・カステというかなり過激で福島瑞穂さんチックなパリ市女性幹部を推して、マクロンが打診した社会統計のオランド大統領時代の首相だったカズヌーブの再任にすら同意せず、政権入りができなかったことで、マクロン大統領が極右RNに妥協することを導き出してしまったといえる。
そして、RNは政権から一方的に敵対視されることがなくなり、かつ、いつでも首相を不信任に追い込んで大統領の辞任と大統領選挙前倒しの為に動くことができるフリーハンドを得たわけである。
そんななかで、面白いのは、左派がもっとも難色を新首相に示しているのが、1982年にそれまで刑法犯だった同性愛を合法化したときに、議会で反対票を投じたことなのである。
フランスでは英国などと同じく同性愛行為は刑法の処罰対象だった。ところが、1981年の大統領選挙で勝利したミッテランは、その撤廃を公約に掲げていたので、激しい議論ののち、翌年に法改正がなされた。
そのとき、私はフランスの官僚養成校であるフランス国立行政学院(ENA)に留学中で、ここでのディスカッションでもこの問題が取り上げられ、「日本では同性愛は処罰対象でないがそれで風紀が乱れることはないか」とか、いまでは考えられないような質問を受けて、「刑罰の対象でないからと言って社会に広く蔓延するような実態はない」とか政府の担当者にも実態を詳しく説明などしていたので、もしかすると、法改正に少しえいきょうをあたえたかもしれないくらいだったのだ。