言い換えれば、バラバラの視覚情報が互いに似て見えるようにまとめることで、脳は安定した環境の知覚を作り出しているのです。
チームは、こうした脳機能について「15秒ごとに入力される視覚情報を、日常生活に支障がないように1つの印象に集約してくれるアプリのようなもの」と表現します。
また、このメカニズムの仕組みを説明するため、次のような錯視動画を作りました。
動画では左側に映る顔は30秒かけてゆっくりと年齢を重ねていて、子供の顔から大人の顔へ変化しています。
しかし、私たちは顔が変化していることにまるで気づくことができないのです。
実際に試してみてください。
この錯覚を検証するため、チームは数百人の参加者を募り、この30秒間の動画を見てもらいました。
動画の最後に表示される顔の年齢を答えるよう求めたところ、参加者はほぼ一貫して、15秒前に表示された顔の年齢を答えたのです。
動画を見ているとき、私たちの知覚は平均化された情報によって、常に過去に偏った認識をし続けます。
この錯視動画は、私たちの見ている世界が、過去15秒間の視覚情報を脳が滑らかに整えた結果であることを示しています。
私たちはリアルタイムで最新の映像だけを追っているのではなく、実際にはそれ以前の情報を含めて未来へ向けて滑らかにつながるよう処理された映像を見ているのです。
これにより、私たちは視界の動きや角度、時間変化に振り回されることのない安定した知覚を得ているのです。
研究主任のデイビッド・ホイットニー(David Whitney)氏は、こう説明します。
「脳が本質的に行っていることは、先延ばしです。
脳は、受け取ったスナップショットをいちいち処理せず、過去の情報から予測して安定した視覚を作り出して私たちに見せています。
そのため、脳は過去の情報に特に重きを置いています。
私たちの知覚は基本的に、過去の情報を再利用しているのです。その方が今見たものを瞬間的に処理するよりも効率的で早く、労力もかからないからです」