ハリス氏の米軍駐留についての発言はその後、各メディアで「現時点で米軍は戦闘地域のシリア」に900人、イラクに2,500人が駐留している」という実態が報告され、間違いだったことが立証された。だが討論の場ではそのミスを指摘されなかったわけだ。
こうした「偏向」について司会役のデービス氏はある程度、その実態を認める形で「7月のバイデン氏対トランプ氏の討論会でバイデン氏があまりに劣勢だったためで、今回はその反動でトランプ氏に厳しい結果になったのかもしれない」と語った。
その結果、討論会が終わって10日ほどの段階でテレビ視聴率調査会社のニールセン社の調査によりABCの視聴者が減ったことが報告された。
9月10日の同討論会はABCの「ワールド・ニュース・トゥナイト」(WNT)という毎晩の定期ニュース番組で放映された。この日の視聴者数は1,600万ほどだった。ところが討論会以前と以後の同番組の視聴者は9月上旬が平均760万人だったの対して、討論会後の3日間の平均は670万人へと減ったという。一日単独、約90万の減少で、その比率は12%となる。つまり討論番組での不評が影響しての視聴者の落ち込みとみられるわけだ。
もともとアメリカの主要メディアは大多数が会社幹部も一線の記者も民主党員や民主党支持が圧倒的に多く、その報道も共和党、とくにトランプ氏の扱いは厳しくなることで知られている。日本側のアメリカ大統領選ウォッチでも銘記しておくべき現実だといえよう。
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古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。