そして、ここでの問題は、過去分の価値のほうが高い精度で測定されることである。しかも、廃棄される発電所や、生命保険の既契約など、確定されていて、消滅に向かうだけの過去の価値は、より高い精度で測定される。故に、ガソリン自動車の製造も、銀行がなくなるのならば銀行も、煙草が禁止されれば煙草の製造も面白い投資対象になるわけだ。
過去の価値は、高い精度で測定される。これを普通の言葉でいえば、リスクが小さいということである。それに対して、未来の価値の測定には極めて大きな不確実性が伴うわけで、それを投資対象に構成すればリスクは高くなる。
通常、企業は、確度の高い過去の価値を保有し続けることで、未来に賭けていく大きなリスクを吸収している。例えば、不動産会社は、開発済みの収益物件を保有し続けることで、新たな開発のための資金を調達し、同時に、その開発リスクを吸収しているわけである。
しかし、別な経営のあり方としては、収益物件を売却し、その代金を新規開発に充て、開発リスクを自己資本で吸収することもできる。実は、このリスク吸収こそ自己資本の機能であり、株式を発行していることの目的なのだから、株式は、その本来の機能に純化されるとき、最も価値が高くなるはずなのである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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