定説がひっくり返る!霊長類の祖先種はペア型の生活だった!
「祖先種は単独生活をしている」という当初のアイデアは、現存する種において、比較的古い時代に出現した霊長類に単独生活をする種が多いことから想定されています。
しかし、オリバー氏たちは、「近年、これまで単独生活だと想定されていた種が、じつは群れで生活している」という報告が増えていることに気が付きました。
そこで、これまでに報告された霊長類の研究データを世界中から集めて、そのデータを網羅的に解析することで祖先の社会の姿を解明することを試みました。
オリバー氏たちは集めたデータを解析するうえで、これまでにない非常に洗練された工夫をこらしました。
従来、「サルAは単独生活をしており、サルBは群れ生活をしている」といったように、ある1つの種は、ただひとつの社会を形成すると想定され、解析が実施されてきました。
ここで、ヒトを例として考えみると「ある1つの種は、ただひとつの社会を形成する」と想定することが、現実をうまく反映していないことがよくわかると思います。同じヒトという種でも、アフリカ人とヨーロッパ人、日本人の社会はかなり異なっています。
このように、同一の種内にも異なる社会が形成される例というのは、ヒトだけでなく、サルの世界においても頻繁にみられることがすでにわかっています。
そこで、オリバー氏たちは、「同一種内においても、違う場所に住む集団では異なる社会が形成されることがあるし、もっというと、同じ場所に住む集団内でも異なる社会が形成されることがある」ということを考慮し、現実世界をきちんと反映した解析を実施しました。
オリバー氏たちは、215種、493集団の霊長類についてのデータを解析しました。
解析の結果、「これまで単独生活をしていると考えられてきたサルの祖先は、実は1頭のオスと1頭のメスから成るペア型の生活であること」が明らかとなりました。
具体的には、「祖先種のうちの10~20%ぐらいは単独生活をしていたが、80~90%はペア生活であった」という推定結果を示しました。
この発見は、長きにわたり支持されてきた定説、つまり「祖先種は単独生活をしている」というアイデアをひっくり返す結果となりました。
では、この発見はなにを意味するのでしょうか?
オリバー氏たちの発見が正しければ、ペアで暮らしていた霊長類の中の一部から、単独生活をする種が出現したというシナリオが想定できます。
では、いったいなぜ、群れで生きることをやめて、独りで生きることをはじめた種が出現したのでしょうか?
独りで生きることには、群れで生きることに比べてどのような利点があったのでしょうか?
このような問いは、「単純な社会から複雑な社会が生まれる」というアイデアを出発点としては生まれなかったでしょう。
無意識のうちに常識となってしまったことを改めて問い直してみると、新たなアイデアの創造につながることがあります。
「人間とはなんだろうか」。この問いに、生物学的側面から答えをさがす試みはまだまだ先が長そうです。
参考文献
進化と人間行動
元論文
Primate social organization evolved from a flexible pair-living ancestor
ライター
近本 賢司: 動物行動学,動物生態学の研究をしている博士学生です.動物たちの不思議な行動や生態をわかりやすくお伝えします.
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。