安全に避難を行うためには十分な猶予です。

フランスのコート・ダジュール大学(UCA)で行われた研究によって、大地震が起こる2時間ほど前になると、震源地となるプレートや断層でゆっくりとした「横方向の滑り」が起きていることが発見されました。

これまで大地震の前兆となる現象を確認しようと多くの研究が行われてきましたが、どの地震にも広く適応できるような共通現象をみつけることはできていませんでした。

研究者たちは「今回の発見によって大地震は事前に予測可能であることが判った」と述べています。

また既存の地震警報システムと組み合わせることで、数秒ほどしかなかった猶予が数時間単位に拡大させ、多くの人々の命を救えるようになるでしょう。

不可能と考えられていた大地震の事前予測を、研究者たちはどのように発見したのでしょうか?

研究内容の詳細は2023年7月20日に『Science』にて「The precursory phase of large earthquakes(大地震の前兆段階)」とのタイトルで公開されました。

大地震の数時間前に予測する方法を発見!地震予知技術に革命

大地震の数時間前に予測する方法を発見!地震予測技術に革命
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

かつては、地震を天気のように予測することは容易だと考えられていた時期がありました。

大地の深部で起きる地震のような壮絶な力学現象ならば、地下の様子を調べることさえできれば、予測材料に辿り着くのは難しくないと思われていたからです。

実際、東日本大震災など過去の大地震の前には、前兆と思える前震や地盤の崩壊など、多くの現象が観測されていました。

しかしその後の数十年にわたる研究にもかかわらず、地震の前兆として統計的に有意な信号を発見することはできませんでした。

大地震の前に前兆と呼べる現象が起きていたのは事実ですが、ある大地震の前兆が他の大地震の前兆にもなるとは限らなかったのです。

これまでにも、かつての大地震でみられた前兆を根拠に、近々大地震が来るとする多くの警告が発せられてきましたが、そのほどんどが的中しなかったのがその証拠です。

ですが近年の室内実験や地震シミュレーションによって、大地震の前には震源地となるプレートや断層に、極めてゆっくりとした滑りが共通して起こることがわかってきました。

そこで今回コート・ダジュール大学の研究者たちは、マグニチュード7以上の90件の大地震にターゲットを絞り込み、震源地近くでGPSを備えた観測所3000カ所の位置情報を分析しました。

マグニチュード7以上の90件の大地震にターゲットを絞り込み、震源地近くのGPSを備えた3000カ所の観測所で記録された位置情報を分析しました。
Credit:QUENTIN BLETERY et al . The precursory phase of large earthquakes . Science (2023)

すると驚くべきことに、地震が発生する直前の2時間の間に水平方向のゆっくりとした滑りが指数関数的に増加していたことが発見されました。

また観測された滑りの方向は、震源地となった断層の滑った方向と一致していました。

大地震が発生する直前に、この増加が偶然起こるとは思えません。

しかし研究者たちは確証を得るため、GPSに記録された10万個の地震に由来しないランダムな位置変化イベントを分析し、同様の変化が偶然起こる確率がわずか0.03%であることを突き止めました。

この結果は、大地震の起こる2時間前には共通して、震源地で水平方向のゆっくりとした滑りが起こることを意味しており、地震の前兆として利用できることを示しています。

研究者たちも「今回の発見によって大地震は事前に予測可能であることが判った」と結論しています。

現在の地震警報システムが地震の数秒から数分前と直前にしか利用することはできず、実行できる措置は限られています。

しかし最大で2時間もの猶予があるならば、最低限の持ち物を持って、安全な屋外に逃れることができるでしょう。

ただ問題がないわけではありません。