どんなに優れた理論も限界があるようです。
韓国の世宗大学(SJU)で行われた研究によって、遠距離で回転している連星のように重力が弱い領域では、標準的な重力理論が崩壊していることが実証されました。
ニュートンの運動法則やアインシュタインの一般相対性理論によれば、重力の影響が弱い世界でも強い世界でも同じ方程式に従うとされています。
しかし新たな観測では、2000au(天文単位)以上離れている連星など、互いに与える重力が極めて弱い場合には、標準的な重力理論で予想されるよりも重力加速度が強くなっていることが示されました。
量子の世界では日常的な世界の物理法則が通じなくなることが知られていますが、重力でも同じように小さな数値では法則が異なってくるのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年1月8日に『The Astrophysical Journal』にて公開されました。
既存の重力理論は暗黒物質に頼っている
これまでニュートンの運動法則とアインシュタインの一般相対性理論は、私たちが宇宙を理解するにあたり、大きな役割を果たしてきました。
特に「重力の強い場所では時間がゆっくり進む」ことや「光も重力によって曲げられる(時空が歪む)」ことを示した一般相対性理論は非常に強固であり、GPSや重力レンズなど多くの応用技術の根底となっています。
しかし他の多くの法則と同じように、ニュートンやアインシュタインの法則も万能ではありませんでした。
たとえば銀河を回る星々の動きの場合、ニュートンやアインシュタインの法則に従えば上の図の点線ように、中心から距離が離れるにつれて回転速度はゆっくりになるはずです。
しかし実際の観測結果は赤い線が示すように、外縁部であっても内縁部と同じような回転速度をしていることが示されました。
よく言われる暗黒物質は、このような予測値と実測値の違いを説明するための存在として認識されています。
暗黒物質が存在すると仮定すると、このような値のズレも説明でき、ニュートンとアインシュタインの重力理論は守られ、一安心というわけです。
ただ値のズレを説明するには、通常の物質の6倍近くの暗黒物質が存在する必要があり、宇宙のほとんどは暗黒物質と暗黒エネルギーに満たされていることになってしまいます。
暗黒物質は通常の物質とは異なり、光と相互作用せずに重力の影響のみを受けるとする極端な性質を持つとされます。
ただ先に述べたように、暗黒物質の性質は測定によって確かめられたものではなく、ニュートンとアインシュタインの法則を守るという目的のもとに、想定されているに過ぎません。
またこれまで暗黒物質を検出しようとするあらゆる試みがなされてきましたが、全て失敗に終わっています。
そのため近年では、暗黒物質に頼らず、物理法則を観測結果に合わせて微調整しようとする「修正ニュートン力学(MOND)」などが盛んに研究されるようになってきました。
(※修正ニュートン力学でも観測できない物質による影響があるとされていますが、その量は2倍ほどと少なくなっています。またその物質もいわゆる暗黒物質ではなく、あくまで未発見の通常物質であると考えられています)
しかしどちらの理論が正しいかを判別するには、暗黒物質の影響が少ない天体などの運行パターンを調べなければなりません。
そこで今回研究者たちは「対決の舞台」として連星系を選びました。
これまでの研究では太陽のように恒星が1つだけの星系は少数派であり、多くの星系は複数の恒星が互いの周りを回っている連星であることが示されています。
実際、太陽から最も近いプロキシマ・ケンタウリは3重連星を構成していることが知られています。
ですが連星が選ばれたのは沢山あるからではありません。
銀河規模では考慮すべき暗黒物質が膨大な量となるため、星々の動きに大きな影響を与えていると考えられています。
しかし連星レベルでは密度の問題から、暗黒物質の影響をほとんど考慮する必要がありません。
(※実際、地球と太陽、あるいはプロキシマ・ケンタウリが含まれる3重連星などでは暗黒物質を考慮せずに運航を予測できます)
そしてニュートンの運動法則やアインシュタインの一般相対性理論によれば、重力の影響が弱い連星でも強い連星でも同じ方程式に従うとされています。
一方で修正ニュートン力学では、離れた連星のように重力が非常に弱い場合には、既存の重力理論の予測より重力加速度が大きくなると予想されていました。
つまり離れた連星の重力加速度を測定できれば、修正ニュートン力学と既存の重力理論(暗黒物質の助けなし)のどちらが正しいかを、文字通り、白黒つけられるわけです。