どれくらいの距離にあると危険なのか?

研究チームは今回、2017年に観測されたキロノヴァ「GW 170817」から得られたデータをもとに調査を実施。

GW 170817は中性子星同士の衝突で発生したキロノヴァであり、地球から約1億3000万光年の遠い距離にあります。

本研究では、GW 170817の放出エネルギーを分析し、地球からどれくらいの距離にあると危険かを試算しました。

その結果、最初に放たれるガンマ線バーストの危険距離は約13光年であることが示されています。

この範囲内にあると地球はもろにガンマ線バーストの直撃をくらい、地上を守るオゾン層が破壊される危険性が高いという。

オゾン層が破壊されると、太陽からの有害な紫外線が増加し、地上の生態系を崩壊させます。

紫外線の増加は生物の皮膚がんリスクを高めるだけでなく、免疫系にも影響を及ぼし、さまざまな病気への抵抗力を弱めます。

加えて、植物の光合成能力や海のプランクトンも多大なダメージを受けるため、生態系全体のバランスが瓦解するでしょう。

チームによると、ガンマ線バーストの放出は短い期間で終わるものの、オゾン層が回復するには最低でも4年はかかるといいます。

中性子星同士の衝突イメージ
中性子星同士の衝突イメージ / Credit: en.wikipedia

一方で、X線の余韻はガンマ線バーストよりも遥かに長く続きますが、こちらが地球に影響を及ぼすには約3光年という短い距離になければならないことが分かりました。

しかし地球にとって最大の脅威となるのは、キロノヴァの最後に放出される宇宙線でした。

宇宙線はキロノヴァの衝突地点からバブル状に全方位に向けて広がり、高エネルギーの荷電粒子を数千年にわたり放出し続けます。

チームの試算によると、宇宙線の影響は約36光年先まで届き、もし地球がその範囲内にあると、数千年にわたってオゾン層の破壊と地上への放射線暴露が続き、生命はほぼ確実に絶滅すると説明しています。

中性子星同士の衝突で発生したキロノヴァのイメージ
中性子星同士の衝突で発生したキロノヴァのイメージ / Credit: NASA Goddard – Doomed Neutron Stars Create Blast of Light and Gravitational Waves(youtube, 2018)

ただ私たちにとって幸運なことに、この危険距離内でキロノヴァが発生する確率は今の所ほぼゼロであることが分かっています。

そもそもキロノヴァを引き起こす中性子星同士の衝突自体が極めて稀であり、研究者いわく、1000億個の恒星のうち中性子星同士の衝突を起こすのはわずか10個程度だと推定されているという。

またキロノヴァを起こす天体は、現在のところ地球が属する天の川銀河自体に存在しないと考えられており、もしあったとしても本研究が示すように、かなり近い距離にないと地球に害を及ぼすことはないでしょう。

こちらは中性子星同士の衝突により発生するキロノヴァのイメージ映像です。

参考文献

How a ‘Kilonova’ Explosion Nearby Could End Life on Earth

A Nearby Kilonova Explosion Could End All Life on Earth. It’s Probably Fine.

元論文

Could a Kilonova Kill: A Threat Assessment

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。