皆さんは「キロノヴァ(Kilonova)」という天文現象をご存知でしょうか。

これは2つの中性子星が互いにぶつかることで生じる大規模な爆発です。

キロノヴァの実際例は2017年に、地球から約1億3000万光年離れた場所で観測されました。

このときは距離があったので地球に何の支障もありませんでしたが、これがもっと近い場所で起きていたらどうなったでしょう?

それを明らかにすべく、米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)は2017年のキロノヴァから得られたデータを分析。

その結果、キロノヴァが地球にかなり近い場所で起こった場合、地上の生命体が壊滅的な被害を受け、地球が数千年にわたって居住不能になる可能性があると示されました。

研究の詳細は2024年1月24日付で科学雑誌『The Astrophysical Journal』に掲載されています。

キロノヴァが発する3種類の放射線

キロノヴァは、主に2つの中性子星が衝突することで発生する大規模爆発です。

中性子星とは、太陽質量の約10〜30倍の恒星が寿命を迎えて爆発した後に残される超高密度の天体で、主に太陽の1.4倍程度の質量を持ちます。

白色矮星の爆発によって生じる新星(nova)より約1000倍の明るさに達することからキロノヴァ(kilonova)と命名されました。

一方で、超新星(supernova)に比べると明るさは10分の1〜100分の1程度といわれています。

では、キロノヴァが発生すると何が起こるのか、下図を参照して見てみましょう。

中性子同士が衝突した場合のキロノヴァの図解。a:衝突の数日〜数年間、b:衝突から数千年間
中性子同士が衝突した場合のキロノヴァの図解。a:衝突の数日〜数年間、b:衝突から数千年間 / Credit: Haille Perkins et al., The Astrophysical Journal(2024)

まずキロノヴァが起きると、最初に高エネルギーの「ガンマ線バースト(GRB)」が発生します。

ガンマ線バーストは現在、宇宙で知られている中で最も光度の高い閃光現象の一つであり、キロノヴァの場合、衝突した星の両極側から2方向のジェットとして噴出します。

それに続いて、ガンマ線バーストが周囲の星間物質に衝突することで強力な「X線」が発生します。

これがキロノヴァ発生後の数日〜数年間に起こることです。

さらにその後はキロノヴァの残留物から「宇宙線(Cosmic rays)」の衝撃波が数千年にわたり広く放出され続けます。

では、これら3種類の放射線はどれくらい危険であり、またどれくらいの距離にあれば、地球はキロノヴァの影響から無事でいられるのでしょうか。